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Esperanza Leon(完結)

五つ国大陸の陽が落ち、月が真上に顔を出した頃、

武国ホドの路地裏、小さな酒場は異様な静かさに包まれていた。
いつもなら酒の臭いと怒声が周辺にも響いているはずだが…今日は違った。

酒場の中では数名の男が神妙な面持ちで机の紙を見つめている。
紙には武国周辺の地図が描かれているようだ。
一人の男がそれを指でなぞり、口を開いた。

「先行したメンバーは奴を場外、この位置まで追い込む。次に第二メンバーが両端を固め、テレル平野まで誘導。そこで、決着をつける…確認は以上だ。質問があるなら今のうちに言ってくれ」
「ふむ…テレル平野は広い、もとい追い込む時点で標的が一人となると、見失う可能性があるが…」
「安心しろ、皆が奴を見失っても…私は絶対に奴を逃さない」

男は眼光を鋭くさせ、窓から見える城を睨んだ。

「…奴は私の父を殺した…何の罪もないのに。いや、むしろ奴を守ろうとさえしたのに!…あんな惨い、事を」
「同感だ。カマル近衛兵長は最期まで立派な方だった…忠心が高かったばかりにあのような目にあわれてしまったと思うと、やりきれん」
「父だけではない!他の者達もそうだろう!?大切な家族を殺された!…なのに奴はのうのうと生きている…こんな事が許されるはずない!皆で奴の、愚王レオを亡きものにするんだ!!」
「おおっ!!」

男が高らかに叫ぶと、酒場の男達も答えるように声を張った。


掛け声後、酒場は元の喧しい場に戻った。男達は思い思いに酒をあおり、標的への恨みを叫びあう。

しかし隅に座っている男は先程の、皆に指示していた時の威勢もなくただ黙って酒場を見つめていた。

「ユエ、何か飲みませんの?」
「…気分じゃない」
「隣、座りますわね」

ユエ、と呼ばれた男はチラリと隣に視線だけ移す。
そこには酒場に全く相応しくない清楚で上品な女性が座っていた。

「…何をしに来た、カガリ。ここはお前が来るべき場所ではないぞ」
「まぁ、酷い事を言うのですね。昔からずっと一緒でしたのに…今回だけ仲間外れなのは嫌ですわ」
「これは殺し合いだ!!」

ガタンと立ち上がると同時に、椅子が倒れてしまった。
突然の怒声に周りはシンと静まってしまう。
しかし、ユエはそれを気にも留めず続けて大声を出し続けた。

「復讐だ!全力で殺しに行く…正義とかそんなものじゃない、これはただの殺し合いなんだ!肉親も誰も殺されてない、ましてや女のお前には関係ない!」
「……」
「それに死ぬかもしれないんだぞ!これはお遊びじゃない、命を賭けた戦いなんだ!……お前には無理だ」
「…全く」

ただ事ではない様子に周りはざわめくが、言われているカガリは全く微動だにしない。
逆にクスリと笑った。

「ユエは昔から変わりませんわね」
「は?」
「目的へ一直線に突き進む…猪突猛進の言葉が良く似合う方。周りなんて、全然見もしないで」
「…何が言いたい?」

ユエがギロリと睨むと、カガリはゆっくりと立ち上がり、そして足元の荷物を探り── 一瞬で薙刀をユエの首に振るった。

薙刀は寸での場所で止められたが、ユエは手を腰の刀に当ててすぐにでも抜けるような状態になっていた。
━…それも一瞬で降ろされ、カガリも微笑んだ。

「私の薙刀の腕、知っているでしょう?」
「…ふん」
「猪の背中を追えるのも、私ぐらいですわ」
「だから、猪って…」
「ユエ」

ユエの言いかける口にそっと手を添え、カガリは変わらぬ穏やかな笑顔を向けた。

「女はどんな事があっても、好いた男のそばを離れちゃ駄目なんですよ」
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