Esperanza Leon(完結)
ヒイラギと創国へ行ってから数日が過ぎた。
アレからまたいつもの単調な毎日が続いている。
命を狙われ、熟睡出来ず、芋の切れ端をかじって、戦って…
毎日が命の取り合いだ。
…こんな毎日が普通だとは、自分自身辟易してしまう。
唯一、以前と違う点といえば…リザがいかなる時も後ろから付いてくる事だ。
朝起きた時も、食事の時も、城を歩く時も、風呂の時も、寝る時も、リザが離れる事が無くなっていた。
…流石に風呂の時は外にいるが…
まるで監視するように凝視し続けていた。
「レオ様」
「……なんだ?」
「どこに行かれるんですか?」
「今日は国王の定例会議がある……って何故笑う?」
「いいえ~、定例会議と言いながらまた創国に行って淫らな行為にふけようとしているんだなぁ~と思いまして。レオ様も大人になりましたねー」
リザはワザとらしく「はっはっはっ」と笑いながら、棒読みで言った。
…あの一件以来、すっかりリザはレオを疑っている。彼を監視?しているのはそのせいもあるのだろう。
全く…一回の行動でここまで人の評価を下げる事になるとは…
「…それはもう解りきっている…か」
「何か言いました?」
「いや……早く向かわないと遅刻してしまう、と思っただけだ」
「場所が知国なだけに、ですか?笑えませんよ」
レオはそんな事考えもしなかったにもかかわらず何故か冷めた視線を向けられてしまった。
しかし、反論したら更に墓穴を掘りそうだ。
レオは無言で場外へと歩き出した…
レオは馬を走らせ、知国ケフラーの城下へと入った。
ケフラーは国柄か、城下も街道も騒がしくない。
活気がないというわけではないが、住民自体が大人しいのだろう。
大きな声を出す者がいないというか、国全体が粛々した雰囲気に包まれている。
子供達さえその場で本を片手にお喋りし、老人は椅子に座り読書をしている。
「(武国とは正反対だな…)」
レオは馬から降り、しみじみと周囲を見回した。
武国…自分の国は喧騒が絶えない。悪い意味で。
人が取っ組み合いをしているのは当たり前で、娼婦が客引きし、酒の臭いと酔っ払いの歌が響いている。
父が生きていた時も同じだったが、質が明らかに違っていた。
前は人々は楽しさに溢れていた。今は、死んだように淀んだ目で笑っている。
恐らく前王の時代から変わっていないのは、今いる知国だけではないだろうか?
武国も含め、各国は随分と変わってしまった。
…農国は良い方向に向かっているような気がするが…
やはり国王が変わってしまうと、国全体がガラリと違う物になってしまうのだろう。
しかし…
知国だけは変わらない。
国王…ナルセスが上手く立ち回っているのもあるが、知国の重臣達の力が大きいだろう。
国王を敬い、民を愛しむ…その心がキチンと行き渡っている。
…羨ましい限りだ…
「レオ様、どうかなさいました?」
「いや、何でもない」
レオは思考を止め、首を振る。
すぐに自分と他人を比べてしまうのはレオの悪い癖だ。
何より、今は少しでも変な様子を見せてしまうと(護衛として付いてきた)リザにまたまた疑いの眼差しを向けられてしまう…
「何でもない、という事は何かあるんですね」
「…リザ、私は」
レオは改めてリザに弁解する事にした。
このままでは一生疑いの目で見られてしまいそうだ。
少し胸がチクリとする。
「私は創国で━…」
「レオ、みーつけた!」
レオが口を開いた瞬間、横から何かに抱きつかれた。
これでも武人だ。人の気配は察する事が出来るはずなのだが…リザに集中していて気付かなかった、という事か?
それとも、抱きついて来た相手が驚くほど軽いせいなのだろうか?
「むはー、レオのもこもこふわふわ最高~」
「…リーフ」
「むにゅーむにゅーにゅーにゅー!」
「……はぁ」
毎度のことだが…抱きついて来た青年、リーフのテンションにレオは付いて行けない。
付いて行けないのだが、嫌ではないので別に支障はないのだが…
今はとてもタイミングが悪い。
リザはレオとリーフを驚いたように凝視している。
それもそのはず、リーフは先日通り女性の服を着ていた。
上品さの中に可愛らしさを潜ませるデザインで、女性の如く細く美しい顔立ちのリーフにとても似合っていた。
化粧は…しているのか分からないが、どちらにしても女性にしか見えない。
レオは瞬間的に嫌な予感を感じたが、それを理解する前にリザの方が声を上げた。
「レオ様、やはり他国の娘と…!!何もなかったと言いながら、やはり、やはり、あったではないですか!!こここんな大衆の面前で抱き合う関係とは…嘆かわしい!」
「落ち着け、リザ…こいつはリーフだ」
「ありゃ……御機嫌よう、リザさん」
目を吊り上げるリザに、リーフは慣れた風に挨拶をした。
流石、礼に厳しい創王家の者である。
その動作は完璧だった。
しかし、それが逆にますます女にしか見えなくなってしまったようで、リザはさらに怒りだした。
「この娘がリーフ様なわけないでしょう!そもそもリーフ様は国王ですよ!?男ですよ!?こんなヒッラヒラな女の服着るわけないでしょう!!レオ様のスカポンタン!」
「すかぽんたん…」
リザはそっぽを向き、馬を連れてどこかへ行ってしまった。
レオはその背を見て、ショボンと肩を落とす。
そこまで言われると返す元気もなくなってしまう。
元々言い争えるような性格でもない。そして、リザの勘違いを解く程口も上手くない。
レオは思う。
きっと、これから一生リザに嫌われて生きていくだろう。
「…えっと…レオごめんね?タイミング最悪だった…かな?」
「ん…あぁ、お前は悪くない。私が悪いんだ…私が全部、な」
レオは眉を下げるリーフに微笑んだ。
リザは馬を適当な場所まで連れてゆき、溜息を吐いた。
最近の自分がおかしい事は自覚している。
妙にイライラしてムカムカして、周りにキツく当たり散らしてしまっていた。
特に主君、レオ様には言い掛かりに近い事ばかりをチクチク言ってしまい、関係がギクシャクしている。
レオ様とは彼が小さい頃からの付き合いだ。
自分が城の兵として初めて登城した際、当時の国王カジキ様の後ろで控えめにこちらを見上げていた。
カジキ王の黒銀髪とは反対に、鈍く光る金髪とふわふわとした幼さが印象的で思わず見つめ続けてしまい、彼を困らせてしまった。
あまり自己主張せず寡黙に周囲に気を配り、大事な場面でしっかりと要点を決める──けれど、少し天然でドジっ子で失敗するとシュンとする。
出会った頃は幼かったが、今はもう15歳。すでに体つきも大人と変わらず、逞しく男らしくなった。
けれど穏やかでぼんやり屋は変わらず、優しく笑う顔が、────
リザはそこまで考えて首を振った。主君に対してなんて事を思っているのか。不敬極まりない。
確かに主従を抜けば、所謂幼なじみなのかもしれないが……
リザは空を見上げて溜息を吐く。
自分は代々武王家に仕える家の娘だ。それ以上それ以下でもない。自分は従者でしかない。
今までも、これからも。
"そうでなくてはならない"
「…レオ様の好みって、あんな感じなんだなぁ…」
リザの独り言は街の喧騒で掻き消えた。
アレからまたいつもの単調な毎日が続いている。
命を狙われ、熟睡出来ず、芋の切れ端をかじって、戦って…
毎日が命の取り合いだ。
…こんな毎日が普通だとは、自分自身辟易してしまう。
唯一、以前と違う点といえば…リザがいかなる時も後ろから付いてくる事だ。
朝起きた時も、食事の時も、城を歩く時も、風呂の時も、寝る時も、リザが離れる事が無くなっていた。
…流石に風呂の時は外にいるが…
まるで監視するように凝視し続けていた。
「レオ様」
「……なんだ?」
「どこに行かれるんですか?」
「今日は国王の定例会議がある……って何故笑う?」
「いいえ~、定例会議と言いながらまた創国に行って淫らな行為にふけようとしているんだなぁ~と思いまして。レオ様も大人になりましたねー」
リザはワザとらしく「はっはっはっ」と笑いながら、棒読みで言った。
…あの一件以来、すっかりリザはレオを疑っている。彼を監視?しているのはそのせいもあるのだろう。
全く…一回の行動でここまで人の評価を下げる事になるとは…
「…それはもう解りきっている…か」
「何か言いました?」
「いや……早く向かわないと遅刻してしまう、と思っただけだ」
「場所が知国なだけに、ですか?笑えませんよ」
レオはそんな事考えもしなかったにもかかわらず何故か冷めた視線を向けられてしまった。
しかし、反論したら更に墓穴を掘りそうだ。
レオは無言で場外へと歩き出した…
レオは馬を走らせ、知国ケフラーの城下へと入った。
ケフラーは国柄か、城下も街道も騒がしくない。
活気がないというわけではないが、住民自体が大人しいのだろう。
大きな声を出す者がいないというか、国全体が粛々した雰囲気に包まれている。
子供達さえその場で本を片手にお喋りし、老人は椅子に座り読書をしている。
「(武国とは正反対だな…)」
レオは馬から降り、しみじみと周囲を見回した。
武国…自分の国は喧騒が絶えない。悪い意味で。
人が取っ組み合いをしているのは当たり前で、娼婦が客引きし、酒の臭いと酔っ払いの歌が響いている。
父が生きていた時も同じだったが、質が明らかに違っていた。
前は人々は楽しさに溢れていた。今は、死んだように淀んだ目で笑っている。
恐らく前王の時代から変わっていないのは、今いる知国だけではないだろうか?
武国も含め、各国は随分と変わってしまった。
…農国は良い方向に向かっているような気がするが…
やはり国王が変わってしまうと、国全体がガラリと違う物になってしまうのだろう。
しかし…
知国だけは変わらない。
国王…ナルセスが上手く立ち回っているのもあるが、知国の重臣達の力が大きいだろう。
国王を敬い、民を愛しむ…その心がキチンと行き渡っている。
…羨ましい限りだ…
「レオ様、どうかなさいました?」
「いや、何でもない」
レオは思考を止め、首を振る。
すぐに自分と他人を比べてしまうのはレオの悪い癖だ。
何より、今は少しでも変な様子を見せてしまうと(護衛として付いてきた)リザにまたまた疑いの眼差しを向けられてしまう…
「何でもない、という事は何かあるんですね」
「…リザ、私は」
レオは改めてリザに弁解する事にした。
このままでは一生疑いの目で見られてしまいそうだ。
少し胸がチクリとする。
「私は創国で━…」
「レオ、みーつけた!」
レオが口を開いた瞬間、横から何かに抱きつかれた。
これでも武人だ。人の気配は察する事が出来るはずなのだが…リザに集中していて気付かなかった、という事か?
それとも、抱きついて来た相手が驚くほど軽いせいなのだろうか?
「むはー、レオのもこもこふわふわ最高~」
「…リーフ」
「むにゅーむにゅーにゅーにゅー!」
「……はぁ」
毎度のことだが…抱きついて来た青年、リーフのテンションにレオは付いて行けない。
付いて行けないのだが、嫌ではないので別に支障はないのだが…
今はとてもタイミングが悪い。
リザはレオとリーフを驚いたように凝視している。
それもそのはず、リーフは先日通り女性の服を着ていた。
上品さの中に可愛らしさを潜ませるデザインで、女性の如く細く美しい顔立ちのリーフにとても似合っていた。
化粧は…しているのか分からないが、どちらにしても女性にしか見えない。
レオは瞬間的に嫌な予感を感じたが、それを理解する前にリザの方が声を上げた。
「レオ様、やはり他国の娘と…!!何もなかったと言いながら、やはり、やはり、あったではないですか!!こここんな大衆の面前で抱き合う関係とは…嘆かわしい!」
「落ち着け、リザ…こいつはリーフだ」
「ありゃ……御機嫌よう、リザさん」
目を吊り上げるリザに、リーフは慣れた風に挨拶をした。
流石、礼に厳しい創王家の者である。
その動作は完璧だった。
しかし、それが逆にますます女にしか見えなくなってしまったようで、リザはさらに怒りだした。
「この娘がリーフ様なわけないでしょう!そもそもリーフ様は国王ですよ!?男ですよ!?こんなヒッラヒラな女の服着るわけないでしょう!!レオ様のスカポンタン!」
「すかぽんたん…」
リザはそっぽを向き、馬を連れてどこかへ行ってしまった。
レオはその背を見て、ショボンと肩を落とす。
そこまで言われると返す元気もなくなってしまう。
元々言い争えるような性格でもない。そして、リザの勘違いを解く程口も上手くない。
レオは思う。
きっと、これから一生リザに嫌われて生きていくだろう。
「…えっと…レオごめんね?タイミング最悪だった…かな?」
「ん…あぁ、お前は悪くない。私が悪いんだ…私が全部、な」
レオは眉を下げるリーフに微笑んだ。
リザは馬を適当な場所まで連れてゆき、溜息を吐いた。
最近の自分がおかしい事は自覚している。
妙にイライラしてムカムカして、周りにキツく当たり散らしてしまっていた。
特に主君、レオ様には言い掛かりに近い事ばかりをチクチク言ってしまい、関係がギクシャクしている。
レオ様とは彼が小さい頃からの付き合いだ。
自分が城の兵として初めて登城した際、当時の国王カジキ様の後ろで控えめにこちらを見上げていた。
カジキ王の黒銀髪とは反対に、鈍く光る金髪とふわふわとした幼さが印象的で思わず見つめ続けてしまい、彼を困らせてしまった。
あまり自己主張せず寡黙に周囲に気を配り、大事な場面でしっかりと要点を決める──けれど、少し天然でドジっ子で失敗するとシュンとする。
出会った頃は幼かったが、今はもう15歳。すでに体つきも大人と変わらず、逞しく男らしくなった。
けれど穏やかでぼんやり屋は変わらず、優しく笑う顔が、────
リザはそこまで考えて首を振った。主君に対してなんて事を思っているのか。不敬極まりない。
確かに主従を抜けば、所謂幼なじみなのかもしれないが……
リザは空を見上げて溜息を吐く。
自分は代々武王家に仕える家の娘だ。それ以上それ以下でもない。自分は従者でしかない。
今までも、これからも。
"そうでなくてはならない"
「…レオ様の好みって、あんな感じなんだなぁ…」
リザの独り言は街の喧騒で掻き消えた。
