Esperanza Leon(完結)
流石五つ国一娯楽施設が多い創国といったところか…表通りは沢山の人で溢れかえっていた。
古い建造物の写真を撮る者、その場でお喋りする者、ショッピングを楽しむ者…
視界に入りきらない位の人々がその場にいるが、全員がある一定のタイミングで振り返った。
人々の視線の先には、アンバランスな二人組が腕を組み歩いている。
一人は少し汚れたローブを深々とかぶっていて顔が分からないが、創国のような華やかな場所には似つかないのは一目瞭然。
その隣で鼻歌を歌っている女は目を疑いたくなるほど美しい。
流行りの服を着て、美しさを引き立てる帽子を被り、そして自身の持ち物であろうバイオリンケースを手に歩いている。
まるで舞踏会に向かっているかのようだ…が一緒に歩いている男があまりにも不相応過ぎて逆に異様な目立ち方をしている。
男達は女に見惚れ、女は異様な組み合わせに目を奪われていた。
「…何だか注目を集めているようだが…」
「あはは、レオがイケメンだからじゃない?」
「……明らかにお前のせいだ」
レオは人々の向ける視線に居心地の悪さを感じていた。
…あまり目立つ事は得意ではない。
暗殺の心配もあるが、何より性格的に多くの人の前に出るのが好きではないのだ。
レオがチラリと視線を移すと、隣のリーフは楽しそうにニコニコしている。
創国の王は人々からの羨望を受ける事も一つの仕事と言っても過言ではない。
…ヒイラギだけではなく、リーフもまた国王としての素質が
「僕だって人にジロジロ見られるの好きじゃないよ」
レオの思考を遮り、小声でポツリとリーフが呟く。
…今のは前の会話の応えだろう。
「でもね、僕は元々どうやっても目立っちゃうから…しょうがなく、こうやって変装するんだ」
「変装って…逆効果じゃないのか?」
「『王様』として見世物になるよりずっとマシ…ううん、『王様』なんか大嫌い」
「…そうか」
「お城にいると皆が僕を『王様』って呼ぶんだ。『王様』『王様』『王様』『王様』ってね……僕は『王様』なんかじゃない。僕は、リーフだよ」
リーフは一瞬悲しそうな表情を浮かべると、レオの腕を放し、正面にある広場へ一人足早に向かった。
これで辻褄が合う、とレオは納得した。
リーフは昔、とても消極的な子供だった。
風が吹けば泣き、鳥が鳴けば怯え、人と喋れば俯き黙る。
しかし『あの日』を境に彼は急変した。
…いや、内面は変わっていないのだろうが…まずネジの外れたようによく笑うようになった。
ヒイラギが言うには本当にどこかのネジが外れてしまったのだと言っていたが…それも当然だろう。
父親が殺害された現場を全て見ていたのならば。
また、『国王』という単語を恐れるようになった。
『王』という言葉でもそうだ。とにかくその関係の言葉を嫌う。
父である国王が殺されてから、リーフは『国王は殺されるもの』という思い込みがあるらしい。
…今の状況から、レオはソレを否定する事は出来ないが…肯定する事も出来ない。
だからリーフは『国王』になる事を恐れる。現に国王なのだから恐れるも何もないが…
『国王』として扱われる事に恐怖を感じている。
よって、リーフが城ではなく娼婦館、いつもの服ではなく女性の服…を着ていた事に納得がいく。
あの館は変装して身を隠すには確かにもって来いな場所なのだ。
「レオ~!早くおいでよ~!」
広場の中心にいるリーフを視界に捉え、レオはゆっくりと彼に近付いた。
「レオ、僕のバイオリン聴きたい?」
広場の中心に立つと、リーフはにっこりレオに笑いかけた。
手に持つバイオリンケースをちょいっと持ち上げ見せる。
リーフはどこに行くにもバイオリンケースを手放さない。
創国ではバイオリンの名手と有名らしいのだが、レオはその演奏を数えるほどしか聴いたときがない。
元々あまり人前で弾きたがらないのもあるが…いや、音楽と言う物は聞いていると眠くなってしまう。だからレオは聴いたとしても記憶がないのかもしれない。
とにかくも、リーフの演奏を聴くのは貴重な事だ。
レオは素直に頷く事にした。
リーフは嬉しそうに頷き返すと、ケースからバイオリンを取り出し、構えた。
周囲の人々は、こんな広場で突然バイオリンを出した美女に訝しげな視線を向けるが次の瞬間目を見開いた。
その音色は歌声のようだった。
穢れを知らない少女のようであり、全てを見知った賢者のようであり、耳だけでなく体全身に音を感じる不思議な音色。
その場にいる人々はあまりの心地良さに立ち止まり、バイオリンの演奏を聴き続けた。
レオもまた、同様に動けなくなっていた。
バイオリンが上手い…という考えが甘かった。
上手いどころではない。
心が奪われてしまいそうな強い引力を持っている。
芸術を楽しむ感性が乏しいとは自覚しているはずだが、リーフの演奏を聞いているとそれが嘘のように胸の奥底から何かが込み上げてしまう。
レオの周りでも泣き始める者、笑い始める者、拝みだす者…様々だった。
バイオリン一つでここまで人々の心を掴めるなんて…リーフのカリスマ性には脱帽してしまう。
嫌だ、と本人は言っていたがリーフ以外創国王は務まらないだろう。
リーフでなければ自由な創国民はまとまらない。
…そう、頂点に立つ者はこうでなければならない。
リーフは意識していないだろうが、レオに『国王というもの』を伝えたかったのかもしれない。
…が、レオは演奏が終わった瞬間にリーフを抱き上げ走り出していた。
後ろから国王リーフの名を叫ぶ者が数人いる。
…今の演奏で彼女、否、彼の正体がバレてしまったようだった。
このままでは囲まれてしまう。
レオは美女と共に駆け落ちするように群衆をかき分け、走り続けた。
古い建造物の写真を撮る者、その場でお喋りする者、ショッピングを楽しむ者…
視界に入りきらない位の人々がその場にいるが、全員がある一定のタイミングで振り返った。
人々の視線の先には、アンバランスな二人組が腕を組み歩いている。
一人は少し汚れたローブを深々とかぶっていて顔が分からないが、創国のような華やかな場所には似つかないのは一目瞭然。
その隣で鼻歌を歌っている女は目を疑いたくなるほど美しい。
流行りの服を着て、美しさを引き立てる帽子を被り、そして自身の持ち物であろうバイオリンケースを手に歩いている。
まるで舞踏会に向かっているかのようだ…が一緒に歩いている男があまりにも不相応過ぎて逆に異様な目立ち方をしている。
男達は女に見惚れ、女は異様な組み合わせに目を奪われていた。
「…何だか注目を集めているようだが…」
「あはは、レオがイケメンだからじゃない?」
「……明らかにお前のせいだ」
レオは人々の向ける視線に居心地の悪さを感じていた。
…あまり目立つ事は得意ではない。
暗殺の心配もあるが、何より性格的に多くの人の前に出るのが好きではないのだ。
レオがチラリと視線を移すと、隣のリーフは楽しそうにニコニコしている。
創国の王は人々からの羨望を受ける事も一つの仕事と言っても過言ではない。
…ヒイラギだけではなく、リーフもまた国王としての素質が
「僕だって人にジロジロ見られるの好きじゃないよ」
レオの思考を遮り、小声でポツリとリーフが呟く。
…今のは前の会話の応えだろう。
「でもね、僕は元々どうやっても目立っちゃうから…しょうがなく、こうやって変装するんだ」
「変装って…逆効果じゃないのか?」
「『王様』として見世物になるよりずっとマシ…ううん、『王様』なんか大嫌い」
「…そうか」
「お城にいると皆が僕を『王様』って呼ぶんだ。『王様』『王様』『王様』『王様』ってね……僕は『王様』なんかじゃない。僕は、リーフだよ」
リーフは一瞬悲しそうな表情を浮かべると、レオの腕を放し、正面にある広場へ一人足早に向かった。
これで辻褄が合う、とレオは納得した。
リーフは昔、とても消極的な子供だった。
風が吹けば泣き、鳥が鳴けば怯え、人と喋れば俯き黙る。
しかし『あの日』を境に彼は急変した。
…いや、内面は変わっていないのだろうが…まずネジの外れたようによく笑うようになった。
ヒイラギが言うには本当にどこかのネジが外れてしまったのだと言っていたが…それも当然だろう。
父親が殺害された現場を全て見ていたのならば。
また、『国王』という単語を恐れるようになった。
『王』という言葉でもそうだ。とにかくその関係の言葉を嫌う。
父である国王が殺されてから、リーフは『国王は殺されるもの』という思い込みがあるらしい。
…今の状況から、レオはソレを否定する事は出来ないが…肯定する事も出来ない。
だからリーフは『国王』になる事を恐れる。現に国王なのだから恐れるも何もないが…
『国王』として扱われる事に恐怖を感じている。
よって、リーフが城ではなく娼婦館、いつもの服ではなく女性の服…を着ていた事に納得がいく。
あの館は変装して身を隠すには確かにもって来いな場所なのだ。
「レオ~!早くおいでよ~!」
広場の中心にいるリーフを視界に捉え、レオはゆっくりと彼に近付いた。
「レオ、僕のバイオリン聴きたい?」
広場の中心に立つと、リーフはにっこりレオに笑いかけた。
手に持つバイオリンケースをちょいっと持ち上げ見せる。
リーフはどこに行くにもバイオリンケースを手放さない。
創国ではバイオリンの名手と有名らしいのだが、レオはその演奏を数えるほどしか聴いたときがない。
元々あまり人前で弾きたがらないのもあるが…いや、音楽と言う物は聞いていると眠くなってしまう。だからレオは聴いたとしても記憶がないのかもしれない。
とにかくも、リーフの演奏を聴くのは貴重な事だ。
レオは素直に頷く事にした。
リーフは嬉しそうに頷き返すと、ケースからバイオリンを取り出し、構えた。
周囲の人々は、こんな広場で突然バイオリンを出した美女に訝しげな視線を向けるが次の瞬間目を見開いた。
その音色は歌声のようだった。
穢れを知らない少女のようであり、全てを見知った賢者のようであり、耳だけでなく体全身に音を感じる不思議な音色。
その場にいる人々はあまりの心地良さに立ち止まり、バイオリンの演奏を聴き続けた。
レオもまた、同様に動けなくなっていた。
バイオリンが上手い…という考えが甘かった。
上手いどころではない。
心が奪われてしまいそうな強い引力を持っている。
芸術を楽しむ感性が乏しいとは自覚しているはずだが、リーフの演奏を聞いているとそれが嘘のように胸の奥底から何かが込み上げてしまう。
レオの周りでも泣き始める者、笑い始める者、拝みだす者…様々だった。
バイオリン一つでここまで人々の心を掴めるなんて…リーフのカリスマ性には脱帽してしまう。
嫌だ、と本人は言っていたがリーフ以外創国王は務まらないだろう。
リーフでなければ自由な創国民はまとまらない。
…そう、頂点に立つ者はこうでなければならない。
リーフは意識していないだろうが、レオに『国王というもの』を伝えたかったのかもしれない。
…が、レオは演奏が終わった瞬間にリーフを抱き上げ走り出していた。
後ろから国王リーフの名を叫ぶ者が数人いる。
…今の演奏で彼女、否、彼の正体がバレてしまったようだった。
このままでは囲まれてしまう。
レオは美女と共に駆け落ちするように群衆をかき分け、走り続けた。
