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Esperanza Leon(完結)

遠ざかる館、前を歩く者の手にする見覚えのあるバイオリンケース、帽子から覗く白銀の髪…
聞き覚えのある笑い声。

「ここまで来れば大丈夫かな?」

創国に来た時と同じ言葉を聞きつつ、レオは建物の影に立つ人物を見つめた。
パサリと帽子を脱ぐと、ニッコリといつもの笑顔が現れる。
普通の男…否女でも見惚れてしまうだろうが、レオは渋い顔で 彼 の名前を呼んだ。

「…なんで女の格好しているんだ、リーフ?」


リーフ──何故か女の格好をしている創国王はペロリと舌を出し、首を傾げながらウィンクをした。
…男だと頭では分かっているのだが、あまりの美しさに『女』としか考えられなくなってきている。
レオは軽く溜息を吐く。

「あれれぇ?折角助けてあげたのにどうして溜息吐いちゃうの?お金まで出してあげたのにぃ」
「…色々ツッコミたいんだが、とにかく…すまなかったな」
「ありがとう、でしょお?」
「…ありがとう」
レオの礼を聞いて、リーフはニコリと微笑んだ。
服のせいもあるが、彼は見る度にその美しさが増しているような気がした。
…男に『美しい』というのは褒め言葉になるか分からないが、レオは素直にそう感じた。

まあ、それは置いておいて、だ。
レオは少し渋い顔をした。
何故リーフは女の格好をしている?
王の彼が何故こんな裏路地の娼婦館にいたのか?

「それは僕も聞きたいなぁー」
「…え」
「どーしてレオはあんな場所にいたの?女性に興味を持つお年頃とはいえねぇ?ヒイラギもそんな事分かってるのに、なんで連れてくるのかねぇ」
レオはどきっとした。
リーフは人の心を読む事ができるのか?いやいや、そんなわけない。
無意識に心の内を呟いてしまったのかもしれない。
じゃないとおかしい。
確かにヒイラギとここまで来たが、リーフはそんな事知らないはずだ。
もしかしたら考えている事全てが筒抜けなのではないだろうか?という妄想も浮かんでしまう。
ありえない。それはありえない。ありえないはずだ。

レオの額にタラリと汗が流れた。

「…レオはすぐ顔に出るね」
「え…ぁ?」
「僕がどうしてあの場所にいたのか、こんな服を着ているのか…ものすごーく知りたいって顔してたよ。だから僕も聞きたくなったんだけど…レオったら焦っちゃってかわいーいー」

リーフはキャッキャッと年頃の娘のようにはしゃいだ。
その姿でそんな行動をされると女にしか見えなくなるから止めて欲しい…とレオは少し遠い目をした。

確かにリーフは普段チャラチャラとしているが、人の顔色を窺うのには誰よりも長けている。
レオのちょっとした表情の変化で、彼の内心を読んだのだろう…というか、浮かんだ疑問は誰でも抱くようなものなのだが…
しかし、それでもまだ説明がつかない事がある。
どうしてリーフはレオがヒイラギとここまで来た事を知っていたのか?
レオの顔色からもそんな事は分からないはずだ。

「…リーフ?」
「んー?あ、お金はね返さなくて良いからね。安かったし」
「いや、そうではなく…どうしてヒイラギが私と一緒だと分かったんだ?」
「えー、簡単だよぉ」

リーフはケラケラと笑い、顔にかかった髪をかき上げた。
ふわりと上品な香りがレオの鼻をくすぐる。

「レオは昔から内向的でしょー?だからこんな所に一人で来ないのは当り前。だったらどうしてレオがここにいるのか?誰かと一緒に来た、ていうのが自然な流れでしょ?しかもレオの友達って僕達四人しかいないし」
「……」
「あ、他にも友達いたらごめんね。でも事実でしょ?で、ナルセスとラルゴがこんな場所にレオを連れてくるわけない、というかあの二人お仕事のことばっかりだからねぇ。疲れないのかなぁ?てなわけで消去法でヒイラギが残ったわけ。ま、そんなまどろっこしく考えなくてもヒイラギだって大体の予想は付くけどね。だってヒイラギ女の子たぶらかすの大好きだもんねぇ~でもさ許嫁もいるんだよね?というか一緒にお城に住んでるんだよね?なのになのに、うわぁ~ヒイラギったらひどーーい☆あははあは」

リーフは一片の曇りもない笑顔でペラペラと言葉を紡ぐ。
しかし、その言葉は表情に反して棘が微かに見えた。

リーフは人の顔色をうかがうのが得意…だが、他人に自分の内心を読ませない事も上手い。
笑顔で棘のある言葉を吐く彼に、レオは少し恐怖を感じた。

レオが一瞬顔を曇らせると、リーフはサッと帽子をかぶり直し

「表通りに出ようよ」

とレオの腕を掴んだ。
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