Esperanza Leon(完結)
レオは自室から出て、廊下を進んだ。
後ろからはリザが何か指示している声が聞こえるが、内容は分かりきっているので聞かずに歩みを続けた。
廊下には割れたガラスや壁の一部が散乱し、立てかけてある武具もほとんどは床に転がっている。この場が『城』というのを忘れてしまうほど酷い光景になっていた。
…以前何度か綺麗に片づけはしたのだが、一日で元に戻ってしまうからもうやる気も起きない。
──むしろ、そういう仕事は王がやる事ではないような気がするのだが…
レオは溜息半分に、目的の場所に辿り着いた。
食堂である。
毎日命を狙われる立場だが腹が減っては戦う事も出来ない。だからこまめに食事はするようにしていた。
…とはいえ『食事』と呼べるほどの食料も料理も出来ないので、他の者が食べもらした固いパンをかじる程度なのだが…
むしろ料理を作る専門の使用人が城にいるの普通なのではないだろうか?
国王が自ら料理をしたり、食堂に来てパンを拾って食べるなんて…
「(…やはり私は国王に向いていないな…)」
「レオ様!」
モシモシとシケパンをかじっている後ろから、再び大きな声をかけられた。
振り向くと、
「リザ…」
「またそんな適当な物食べて!キチンと食べないとぶっ倒れますよ!?」
「…しかし、ここにはこれしかないが…」
「棚に昨日貰って来た野菜とかあるでしょう!?全く…なんだってここの男達は料理出来ないのかね…レオ様、今簡単に作りますから待っててください、というか自分で作れるようになってください」
「だからそれは王がやるべき事なのか?」という言葉をパンと一緒に飲み込み、レオは腕捲りするリザの邪魔にならないように食堂、調理場の端に椅子を引っ張り座った。
リザは適当な野菜を手に取り炒めている。味付けは…眺めている限りしていないようだが突っ込まないでおこう。
…野菜は好きではないのだが、食べないと殴られて自分も炒められそうなので大人しく食べようと思った。
リザはいつも片時も離れず自分の世話を焼いてくれている。
王としては間違っていないのかもしれないが、男としてはまるで子供扱いされているように感じてしまう。
レオはもう15の歳だ。
自分の事は自分でしなくては……と思うのだが、料理の一つも出来ずパンを齧るしか出来ず情けない…とレオはこっそりと項垂れた。
「先程の件ですが」
「…む」
「先日登城した若者でした…恐らく反乱分子グループの一員だったんでしょう。詳しくは今調べさせています」
リザは出来上がった料理をレオの前に差し出しつつ、淡々と報告した。
レオは何も答えずに野菜を口に運ぶと、苦みが舌の上に広がり、少し渋い顔をした。
『反乱分子グループ』
その言葉は聞き飽きていた。
毎日そのグループから命を狙われ、一回どころではなく一日に数回襲いかかられた事もある。
しかも、グループは一つではない。レオが認識出来ているのだけでも三つは存在している。その他、細かい物もきっと隠れているだろう。
今はそれぞれ別のグループだが、一同が結託してしまうのも時間の問題なのかもしれない。
「レオ様」
「…ああ」
リザに呼ばれ、レオは自分の手が止まっている事に気付いた。
けして出された料理が気に入らなかったわけではない…少し苦かったが。レオは改めて料理を口に含んだ。
「むぐむぐ」
「……はぁ」
「そんな溜息を吐かんでもいいだろう…少し苦いが決して食べたくないわけでは━」
「料理のせいではないです。レオ様と同じ事を考えていたんです」
リザは再び溜息を吐くと、レオの隣の壁に背を預けた。
「日に日にレオ様の命を狙う者の侵入が増えてきています。警備は厳重にと指示してあるにも関わらず……必然的に城内の内通者疑わざるえません」
「……」
「レオ様、城兵全員の身体検査と審問を行いましょう。あと身辺調査も━」
「いや、それはやらない」
レオはゆっくりと首を横に振った。それにリザは渋い顔をする。
主君……いや…主君の命が狙われているのだ。その対処を否定されては表情も露骨に出てしまう。
しかしレオの意志も固い。
「確かに私を殺そうとする者は、最近目立って多くなってきている…だが、私にはそれをやられる理由がある」
━反乱分子の大半はレオに家族を殺された者だ。王座を欲する者はそれに乗じた。もちろん恨みも欲もなく、ただ金目当てで雇われた者も少なくはない。
歪な王を殺そうとする歪な反乱分子…
カタキを取りに来るというのなら、それを正面から受けるのが礼義であり、使命だろう。
しかし、そう簡単に命はやれない。レオだって命は惜しい。死にたくない。
…確かに、相手の気持ちも分かる。大事な者を殺されて恨まない方がおかしいだろう。
だから、正面から本気で戦う。それでどちらが倒れようと、仕方のない事だ。
「レオ様…しかし」
「…そろそろ衛兵達の交代の時間じゃないか?行け」
「…は」
レオに促され、リザは踵を返し渋々仕事に戻った。
兵士の交代時の引き継ぎがキチンとされているか見回るのも衛兵長の役目である。
しかし…
「(レオ様は気付いていない…今のままでは、また新しい恨みの火種が増やしてしまうばかり…どこかで断ち切らなければ、この戦いは終わらない)」
リザは言いかけた言葉を飲み込み、長い廊下を進み続けた。
後ろからはリザが何か指示している声が聞こえるが、内容は分かりきっているので聞かずに歩みを続けた。
廊下には割れたガラスや壁の一部が散乱し、立てかけてある武具もほとんどは床に転がっている。この場が『城』というのを忘れてしまうほど酷い光景になっていた。
…以前何度か綺麗に片づけはしたのだが、一日で元に戻ってしまうからもうやる気も起きない。
──むしろ、そういう仕事は王がやる事ではないような気がするのだが…
レオは溜息半分に、目的の場所に辿り着いた。
食堂である。
毎日命を狙われる立場だが腹が減っては戦う事も出来ない。だからこまめに食事はするようにしていた。
…とはいえ『食事』と呼べるほどの食料も料理も出来ないので、他の者が食べもらした固いパンをかじる程度なのだが…
むしろ料理を作る専門の使用人が城にいるの普通なのではないだろうか?
国王が自ら料理をしたり、食堂に来てパンを拾って食べるなんて…
「(…やはり私は国王に向いていないな…)」
「レオ様!」
モシモシとシケパンをかじっている後ろから、再び大きな声をかけられた。
振り向くと、
「リザ…」
「またそんな適当な物食べて!キチンと食べないとぶっ倒れますよ!?」
「…しかし、ここにはこれしかないが…」
「棚に昨日貰って来た野菜とかあるでしょう!?全く…なんだってここの男達は料理出来ないのかね…レオ様、今簡単に作りますから待っててください、というか自分で作れるようになってください」
「だからそれは王がやるべき事なのか?」という言葉をパンと一緒に飲み込み、レオは腕捲りするリザの邪魔にならないように食堂、調理場の端に椅子を引っ張り座った。
リザは適当な野菜を手に取り炒めている。味付けは…眺めている限りしていないようだが突っ込まないでおこう。
…野菜は好きではないのだが、食べないと殴られて自分も炒められそうなので大人しく食べようと思った。
リザはいつも片時も離れず自分の世話を焼いてくれている。
王としては間違っていないのかもしれないが、男としてはまるで子供扱いされているように感じてしまう。
レオはもう15の歳だ。
自分の事は自分でしなくては……と思うのだが、料理の一つも出来ずパンを齧るしか出来ず情けない…とレオはこっそりと項垂れた。
「先程の件ですが」
「…む」
「先日登城した若者でした…恐らく反乱分子グループの一員だったんでしょう。詳しくは今調べさせています」
リザは出来上がった料理をレオの前に差し出しつつ、淡々と報告した。
レオは何も答えずに野菜を口に運ぶと、苦みが舌の上に広がり、少し渋い顔をした。
『反乱分子グループ』
その言葉は聞き飽きていた。
毎日そのグループから命を狙われ、一回どころではなく一日に数回襲いかかられた事もある。
しかも、グループは一つではない。レオが認識出来ているのだけでも三つは存在している。その他、細かい物もきっと隠れているだろう。
今はそれぞれ別のグループだが、一同が結託してしまうのも時間の問題なのかもしれない。
「レオ様」
「…ああ」
リザに呼ばれ、レオは自分の手が止まっている事に気付いた。
けして出された料理が気に入らなかったわけではない…少し苦かったが。レオは改めて料理を口に含んだ。
「むぐむぐ」
「……はぁ」
「そんな溜息を吐かんでもいいだろう…少し苦いが決して食べたくないわけでは━」
「料理のせいではないです。レオ様と同じ事を考えていたんです」
リザは再び溜息を吐くと、レオの隣の壁に背を預けた。
「日に日にレオ様の命を狙う者の侵入が増えてきています。警備は厳重にと指示してあるにも関わらず……必然的に城内の内通者疑わざるえません」
「……」
「レオ様、城兵全員の身体検査と審問を行いましょう。あと身辺調査も━」
「いや、それはやらない」
レオはゆっくりと首を横に振った。それにリザは渋い顔をする。
主君……いや…主君の命が狙われているのだ。その対処を否定されては表情も露骨に出てしまう。
しかしレオの意志も固い。
「確かに私を殺そうとする者は、最近目立って多くなってきている…だが、私にはそれをやられる理由がある」
━反乱分子の大半はレオに家族を殺された者だ。王座を欲する者はそれに乗じた。もちろん恨みも欲もなく、ただ金目当てで雇われた者も少なくはない。
歪な王を殺そうとする歪な反乱分子…
カタキを取りに来るというのなら、それを正面から受けるのが礼義であり、使命だろう。
しかし、そう簡単に命はやれない。レオだって命は惜しい。死にたくない。
…確かに、相手の気持ちも分かる。大事な者を殺されて恨まない方がおかしいだろう。
だから、正面から本気で戦う。それでどちらが倒れようと、仕方のない事だ。
「レオ様…しかし」
「…そろそろ衛兵達の交代の時間じゃないか?行け」
「…は」
レオに促され、リザは踵を返し渋々仕事に戻った。
兵士の交代時の引き継ぎがキチンとされているか見回るのも衛兵長の役目である。
しかし…
「(レオ様は気付いていない…今のままでは、また新しい恨みの火種が増やしてしまうばかり…どこかで断ち切らなければ、この戦いは終わらない)」
リザは言いかけた言葉を飲み込み、長い廊下を進み続けた。
