Esperanza Leon(完結)
レオは玉座に座っていた。周りには人がいない。薄暗い空間の中、ただ一人玉座に座っていた。
――記憶では、城に戻った後生き残った兵士達に王位継承の旨を話して、自室に戻った…はずなのだが…
「(私は私が知らないうちに夢遊病に…いや、私は眠った覚えがない。という事はこれは現実――)」
「やっほー☆」
レオが一人思案していると、突然前方の暗闇から声が聞こえてきた。
視線を移すが、暗闇しか見えてこない。むしろ自分の周りは闇に包まれていた。
「ここはアナタの座っている玉座以外は何もない空白の空間だょ。あ、そこから下りないほぉが良いからネ。肉体は現実にあるとはいぇ、精神体が下に堕ちたらアタシも助けられないしぃ」
「……?」
「きゃははは、その顔マジうけるぅ☆」
レオは空間に響く言葉に困惑した。
空白の空間?
肉体は現実にある?
精神体?
堕ちる?
…訳が分からない…
レオは首を振り、『これは夢だ。いつの間にか自分は眠ってしまったのだ。そうに違いない』と思いこもうと瞳を伏せた。
…しかし、声は止まない。
「確かにこれわ、アナタの夢。夢なんだけどー…アタシわ存在してる。んん~アナタの意識を取り出してアタシの世界に入れた、ていうのが正しいかな?」
「……」
「と・に・か・く☆今の…ううん、これから起こる事はこれからの武国、五つ国にもカンケーしてるって事。――アタシを受け入れなさい、ホドの指導者」
刹那、レオの耳元すぐに息と声がかかった。突然の事に驚き、思わず瞳を開けると…目の前に少女が『浮いていた』。
レオの周りには座っている玉座以外は闇に包まれている。
声の響き具合いから、暗闇は全方向途方もない広さだと、無意識に理解していた。
―その空間に少女が浮いている。
ありえない。
足元に台などない。
まるで水面の上にいるようにふわふわしている。
夢の中だとしても、彼女には羽根も付いていない。
浮いている道理も分からない。
…自分と同じくらいの年齢だろうか…
幼くあどけない顔立ちだが、七色の髪と瞳に宿った闇と光は自分よりも遥かに深い物を感じる。
服も…服と呼んでいいのだろうか?
布を一枚纏っているだけだが…
「ああ、これ?他に着るのなかったからそこらへんに落ちてた布巻いといたのー。くすくす、せくしぃでしょう?」
少女はパチリとウィンクすると、レオに向かって太股をチラリと見せつけた。
レオは一瞬顔を赤らめ、目をそらした。
「きゃははは、レオは素直ちゃん☆他の四人はのぉりあくしょんだったんだよぉー」
「…他の…四人?」
「そぉだなぁ、リーフに何か服もらってくるね。じゃないとこっち見てくれないでしょ?」
「!?」
少女はパチンと指を鳴らすと、瞬時に服が変わった。創国特有のレースとフリルのついた可愛らしいものだ。しかし、とても一瞬で着替えられるような代物でも、手に入れられるものでもない。
これは夢。
だが夢にしてははっきりしている。
はっきりしているわりには現実味がない。
現実味がないのに、違和感が失せていた。
「…お前は一体何者だ…?」
「くすっ…やっとアタシを見たぁ……アタシは」
少女はふわりと柔らかい髪を軽くかき上げると、にっこり微笑んだ。
「五つの国を守護するモノ。運命を操るモノ。世界をエガクモノ。全てのソウゾウシュ…貴方達の言葉で言うならば、女神」
「━━…!!」
レオの額に汗が伝った━…
「…女神」
レオは目の前の少女を見つめ、言葉を反芻する。
…確かに聞いた。『女神』という言葉を。
女神という存在は、教えられなくともこの五つ国大陸に生まれた者ならば誰もが知っている『全ての頂点』だ。
五つの国にはそれぞれ一人ずつ国王が存在している。
民達は国王に跪き、国王の采配一つで命も投げなければならない。
民の運命は国王の手にかかっている…と言っても過言ではない。
…だが、そんな国王の運命は国王自身の物ではない。
五つ国の森羅万象を司る唯一神━…女神の手中にある。
誰が『女神』と呼び始めたかは分からない。
ただ女性の姿をしているから…という理由かもしれないし、真の名前を呼んではいけない為の仮称かもしれない。
それとも名前が元々ないのか…
とにかく、五つ国の民は王含め全員が守護神を『女神』と呼んだ。
女神は五つ国の全てを司る。
羽虫の一生、湖の小波一つ、五つ国で起こる全ては女神が動かしている『運命の歯車』だ。
彼女がいるから、五つ国は衰退することなく、人の住める土地であり続けられる。
五つの国の王はそんな女神の意志を人々に伝える為に選ばれた、いわゆる『女神の僕』だ。
面通しもその時代の国王五人しか許されていない。
例え王族だとしても、次の代へ王権を継承した人物だろうと、例外はない。
五人のみが女神に認められ、足下へ跪く事が出来る。
そんな女神の正体は、誰も分からない。
僕となった国王さえも、口を閉ざしてしまう。
ただ、ただ、尊く美しく国王という僕の愛を一身に受ける、唯一神…それしか分からなかった。
「その女神が、目の前にいる…夢じゃなぃからね」
「…ああ」
「そぅアナタのパパがシんだから、アタシはここにいるの」
まるで人の心を読むように少女…否、女神は話す。幼さの残る笑顔は無邪気であり、どこか妖艶だった。
今すぐに『私を愛せ』と言わんばかりに…
女神はレオの奥底を明かすように話を続ける。
「アナタのパパがシんじゃって、創も知もシんじゃって、工がコロされたときにわアタシのママはボロボロだったの」
「…まま?」
「ママは最期の力を振り絞って、アタシを創造(う)んだ…だからアタシにわママみたいな力はなぃ。不完全で歪でバラバラなアタシ」
「……」
「だから、アナタタチも不完全で歪でバラバラな王にしかなれなぃ。でも悪いのわアタシじゃなぃよ。アタシはママみたいにジヒ深くもなぃし、甘やかしもしなぃ。ただ見守ってあげる。アナタタチがほんとおに望むモノだけわあげる…レオは、ナニガほしぃの?」
レオが言葉を発する前に、女神はレオの膝に乗ってきた。
…声が出ない。
…体が硬直する。
足の爪先から、頭のてっぺんまで瞬時に血が駆け巡る。
鼻からは花とも菓子とも香料とも言えぬ、不思議な甘い薫りの情報が脳へ運ばれる。
触れている部分は…この世のものとは思えない柔らかさを感じる。
「こんな感触、もぉ味わえないからたーんと堪能してネ」
女神はそう言いながらさらに体を密着させる。レオの首に腕を回し、額を重ねる…
レオはあまりの刺激に頭がクラクラしてしまった。
……女に触れるのは、初めてだ…
自分の母は物心つく前に死んだそうだし、武城はそもそも女が少ない。
むしろ女はリザしかいない。
リザは、アレはほぼ男のようなものだ。
女性らしい、こんな、柔らかさは、多分、ない。
いや、こんなに気持ちが良いのは女神しか持っていないのではないだろうか?
…自分が女を知らないだけなのかもしれないが…
何にしても、女神の体に触れていると何もかも吹っ飛んでしまいそうになってしまう。
もうずっとこうしていたい…なんて考えてない考えてない考え…てない…
「くすくすくす…それじゃリザに失礼じゃなぃ?スキなんでしょ?カノジョノこと」
「…えっ?」
「もぉ少し自分の感情を理解出来たら…今とは違う感情がわき上がるょ…ショウドウテキでアツいモノが、ね」
女神は最後の言葉を言い終わると同時に身を離した。その速さは、くっついた時よりも遥かに素早かった。
…レオは名残惜しそうに、手を伸ばしかけたが…すぐに止めた。
そんなレオの様子を構いもせず、女神は微笑む。
「ふふふ、そぉアナタはすぐに気付く。野性的で野蛮なソレを…だってレオはレオだもんねぇ」
「……どういう事だ」
「そのまんまだょぉ。ショウドウは止められない。止められないけど、レオは『生きる事』を望むんだね」
「!?」
「大丈夫。アタシは一つだけアナタにあげる。本当に欲しいモノをあげる」
女神は自分の掌を口に寄せると、すぐにレオへそれを差し出した。
「ナンジイノチヲウバイシツミブカキ王ナリ。ナレドウバイイノチハイクタノイノチヲスクウモノナリ。ソノミケズリテイノチヲウバイイノチヲスクイクニヲマモルイシズエトナラン…龍の栄光を継ぎしホドの指導者、レオを我が身へ迎える…さぁ、 私 にアナタの愛を頂戴…」
女神の言葉は何故か甘美だった。
理由は分からない。ただ、魅了された。
レオは吸いこまれるように女神の手を取ると、その掌へそっと口付けた。
――記憶では、城に戻った後生き残った兵士達に王位継承の旨を話して、自室に戻った…はずなのだが…
「(私は私が知らないうちに夢遊病に…いや、私は眠った覚えがない。という事はこれは現実――)」
「やっほー☆」
レオが一人思案していると、突然前方の暗闇から声が聞こえてきた。
視線を移すが、暗闇しか見えてこない。むしろ自分の周りは闇に包まれていた。
「ここはアナタの座っている玉座以外は何もない空白の空間だょ。あ、そこから下りないほぉが良いからネ。肉体は現実にあるとはいぇ、精神体が下に堕ちたらアタシも助けられないしぃ」
「……?」
「きゃははは、その顔マジうけるぅ☆」
レオは空間に響く言葉に困惑した。
空白の空間?
肉体は現実にある?
精神体?
堕ちる?
…訳が分からない…
レオは首を振り、『これは夢だ。いつの間にか自分は眠ってしまったのだ。そうに違いない』と思いこもうと瞳を伏せた。
…しかし、声は止まない。
「確かにこれわ、アナタの夢。夢なんだけどー…アタシわ存在してる。んん~アナタの意識を取り出してアタシの世界に入れた、ていうのが正しいかな?」
「……」
「と・に・か・く☆今の…ううん、これから起こる事はこれからの武国、五つ国にもカンケーしてるって事。――アタシを受け入れなさい、ホドの指導者」
刹那、レオの耳元すぐに息と声がかかった。突然の事に驚き、思わず瞳を開けると…目の前に少女が『浮いていた』。
レオの周りには座っている玉座以外は闇に包まれている。
声の響き具合いから、暗闇は全方向途方もない広さだと、無意識に理解していた。
―その空間に少女が浮いている。
ありえない。
足元に台などない。
まるで水面の上にいるようにふわふわしている。
夢の中だとしても、彼女には羽根も付いていない。
浮いている道理も分からない。
…自分と同じくらいの年齢だろうか…
幼くあどけない顔立ちだが、七色の髪と瞳に宿った闇と光は自分よりも遥かに深い物を感じる。
服も…服と呼んでいいのだろうか?
布を一枚纏っているだけだが…
「ああ、これ?他に着るのなかったからそこらへんに落ちてた布巻いといたのー。くすくす、せくしぃでしょう?」
少女はパチリとウィンクすると、レオに向かって太股をチラリと見せつけた。
レオは一瞬顔を赤らめ、目をそらした。
「きゃははは、レオは素直ちゃん☆他の四人はのぉりあくしょんだったんだよぉー」
「…他の…四人?」
「そぉだなぁ、リーフに何か服もらってくるね。じゃないとこっち見てくれないでしょ?」
「!?」
少女はパチンと指を鳴らすと、瞬時に服が変わった。創国特有のレースとフリルのついた可愛らしいものだ。しかし、とても一瞬で着替えられるような代物でも、手に入れられるものでもない。
これは夢。
だが夢にしてははっきりしている。
はっきりしているわりには現実味がない。
現実味がないのに、違和感が失せていた。
「…お前は一体何者だ…?」
「くすっ…やっとアタシを見たぁ……アタシは」
少女はふわりと柔らかい髪を軽くかき上げると、にっこり微笑んだ。
「五つの国を守護するモノ。運命を操るモノ。世界をエガクモノ。全てのソウゾウシュ…貴方達の言葉で言うならば、女神」
「━━…!!」
レオの額に汗が伝った━…
「…女神」
レオは目の前の少女を見つめ、言葉を反芻する。
…確かに聞いた。『女神』という言葉を。
女神という存在は、教えられなくともこの五つ国大陸に生まれた者ならば誰もが知っている『全ての頂点』だ。
五つの国にはそれぞれ一人ずつ国王が存在している。
民達は国王に跪き、国王の采配一つで命も投げなければならない。
民の運命は国王の手にかかっている…と言っても過言ではない。
…だが、そんな国王の運命は国王自身の物ではない。
五つ国の森羅万象を司る唯一神━…女神の手中にある。
誰が『女神』と呼び始めたかは分からない。
ただ女性の姿をしているから…という理由かもしれないし、真の名前を呼んではいけない為の仮称かもしれない。
それとも名前が元々ないのか…
とにかく、五つ国の民は王含め全員が守護神を『女神』と呼んだ。
女神は五つ国の全てを司る。
羽虫の一生、湖の小波一つ、五つ国で起こる全ては女神が動かしている『運命の歯車』だ。
彼女がいるから、五つ国は衰退することなく、人の住める土地であり続けられる。
五つの国の王はそんな女神の意志を人々に伝える為に選ばれた、いわゆる『女神の僕』だ。
面通しもその時代の国王五人しか許されていない。
例え王族だとしても、次の代へ王権を継承した人物だろうと、例外はない。
五人のみが女神に認められ、足下へ跪く事が出来る。
そんな女神の正体は、誰も分からない。
僕となった国王さえも、口を閉ざしてしまう。
ただ、ただ、尊く美しく国王という僕の愛を一身に受ける、唯一神…それしか分からなかった。
「その女神が、目の前にいる…夢じゃなぃからね」
「…ああ」
「そぅアナタのパパがシんだから、アタシはここにいるの」
まるで人の心を読むように少女…否、女神は話す。幼さの残る笑顔は無邪気であり、どこか妖艶だった。
今すぐに『私を愛せ』と言わんばかりに…
女神はレオの奥底を明かすように話を続ける。
「アナタのパパがシんじゃって、創も知もシんじゃって、工がコロされたときにわアタシのママはボロボロだったの」
「…まま?」
「ママは最期の力を振り絞って、アタシを創造(う)んだ…だからアタシにわママみたいな力はなぃ。不完全で歪でバラバラなアタシ」
「……」
「だから、アナタタチも不完全で歪でバラバラな王にしかなれなぃ。でも悪いのわアタシじゃなぃよ。アタシはママみたいにジヒ深くもなぃし、甘やかしもしなぃ。ただ見守ってあげる。アナタタチがほんとおに望むモノだけわあげる…レオは、ナニガほしぃの?」
レオが言葉を発する前に、女神はレオの膝に乗ってきた。
…声が出ない。
…体が硬直する。
足の爪先から、頭のてっぺんまで瞬時に血が駆け巡る。
鼻からは花とも菓子とも香料とも言えぬ、不思議な甘い薫りの情報が脳へ運ばれる。
触れている部分は…この世のものとは思えない柔らかさを感じる。
「こんな感触、もぉ味わえないからたーんと堪能してネ」
女神はそう言いながらさらに体を密着させる。レオの首に腕を回し、額を重ねる…
レオはあまりの刺激に頭がクラクラしてしまった。
……女に触れるのは、初めてだ…
自分の母は物心つく前に死んだそうだし、武城はそもそも女が少ない。
むしろ女はリザしかいない。
リザは、アレはほぼ男のようなものだ。
女性らしい、こんな、柔らかさは、多分、ない。
いや、こんなに気持ちが良いのは女神しか持っていないのではないだろうか?
…自分が女を知らないだけなのかもしれないが…
何にしても、女神の体に触れていると何もかも吹っ飛んでしまいそうになってしまう。
もうずっとこうしていたい…なんて考えてない考えてない考え…てない…
「くすくすくす…それじゃリザに失礼じゃなぃ?スキなんでしょ?カノジョノこと」
「…えっ?」
「もぉ少し自分の感情を理解出来たら…今とは違う感情がわき上がるょ…ショウドウテキでアツいモノが、ね」
女神は最後の言葉を言い終わると同時に身を離した。その速さは、くっついた時よりも遥かに素早かった。
…レオは名残惜しそうに、手を伸ばしかけたが…すぐに止めた。
そんなレオの様子を構いもせず、女神は微笑む。
「ふふふ、そぉアナタはすぐに気付く。野性的で野蛮なソレを…だってレオはレオだもんねぇ」
「……どういう事だ」
「そのまんまだょぉ。ショウドウは止められない。止められないけど、レオは『生きる事』を望むんだね」
「!?」
「大丈夫。アタシは一つだけアナタにあげる。本当に欲しいモノをあげる」
女神は自分の掌を口に寄せると、すぐにレオへそれを差し出した。
「ナンジイノチヲウバイシツミブカキ王ナリ。ナレドウバイイノチハイクタノイノチヲスクウモノナリ。ソノミケズリテイノチヲウバイイノチヲスクイクニヲマモルイシズエトナラン…龍の栄光を継ぎしホドの指導者、レオを我が身へ迎える…さぁ、 私 にアナタの愛を頂戴…」
女神の言葉は何故か甘美だった。
理由は分からない。ただ、魅了された。
レオは吸いこまれるように女神の手を取ると、その掌へそっと口付けた。
