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Esperanza Leon(完結)

リザはゆっくりと謁見の間に足を踏み入れた。
指先でひんやりと冷たい扉をかする。まるで氷に触れたかのように、痛みを感じた。

視線の先は真っ暗だった。…すでに窓の外は陽が落ちている。だから蝋燭も松明ついていないこの場所は闇の中のように暗い。
暗さもあるだろうが、そこは異様な空間だった。全身を針で刺されているかのように、視線を全方向に感じる。
少しでも気を抜けば、足を動作を止めてしまえば…すぐに体を噛み千切られそうな感覚だ。耳元に、背後に、前方に、頭上に、虎視眈々と獲物を狙う獣が張り付いている錯覚さえ感じる。
リザはじりじりと体を横に進めると、そこにあるだろう燭台に手を伸ばした。
…少し目も暗闇に慣れてきた。
目視と手の感触でそれが確かに燭台だと確認すると、誰かが忘れてしまったのだろう、すぐ下に置いてある火打石を打ち合わせた。
ゆらりとした淡い灯りが蝋燭に灯る。リザは暗闇に慣れた目で改めてその場を見回した。
床には見覚えのある領主…だったモノ達が横たわっている。折れた剣や槍が無数に散らばり、血やよく分からない物体も飛び散っている。
…この状況から察するに、ここが一番の戦場だったという事を示していた。
リザはそれでも目を凝らすように奥へと視線を映した。ぽっかり闇穴が開いたように暗い、謁見の間。
その最奥に

玉座に座る物影を見つけた。

「レオ様…!!」
リザは叫ぶと、玉座に向かって走った。目に映る彼は微かに肩で息をしている。少し怪我をしていて服は汚れているが、致命傷は負っていない。彼をこんな場所にいつまでも置いておくわけにはいかない。
すぐに助けねば━

その瞬間、リザの足は止まった。

足元に短剣が刺さっている。元々そこにあったものではない。今、レオがリザに向かって投げてきた物だ。
リザは一歩後ろへ下がった。

「…レオ様…?」
「お前も………のか」
「えっ」
「お前も、私を、殺しに来たのか」

レオはゆらりと立ち上がる。足はおぼつかず一瞬よろめいたが倒れる事はなく、リザに視線を投げかけた。

その瞳は暗闇の中とはいえあまりにも淀み、そして生気を感じる事は出来なかった。

レオの姿を改めて見る。
全身は血で汚れ、特に両腕は赤黒く染まりきっていた。
…自身の血ではない…
あんなに染まるのは……尋常ではない人の血が必要なはずだ。そう、丁度城内に倒れていた兵士の数位の血が…

リザが目を見開くと同時に、レオは大きく口を開けた。

「そうか、やはり、みな玉座が欲しいのか!そうか、そうか…ああ、そうだろうなじゃなければ武器を手にしてない、私に頭をさげない父に従わない…全ては玉座の為に、やっていた事なんだろう?本当は私達の命などいらない、殺したい殺したいと思って…玉座が欲しいそうなんだろ、ああ、そうだろ父さんが死んで喜んでるんだろう私を殺せばお前達が、武国の頂点に君臨できるから…………殺せばいいだろう、そのアックスを私に向ければいいだろう?さあ、さあ!!!!!」

刹那、リザは手にしたアックスを前に構えた。
━≪主君≫に対してではない。
否、見方を変えればそうなってしまうかもしれない。
リザは、つむじ風の如く間合いを詰めてきたレオの攻撃を、アックスの持ち手で弾いた。

「(速い━…!!)」

あとコンマ一秒でも遅ければ、体を貫かれていただろう。それほど重い。それほど鋭い。それほど躊躇がなかった。
リザは衝撃で少し後方へよろめいてしまう。これでも力には自信がある。レオにも負けない位の力があるはずだ…なのに、今後ろに押されてしまった。
「(私が城を出て見回りに出てからそんなに時間は経っていない…レオ様がこんなに急激に成長できるはずが━…)」
考える暇もなく、レオの二打目が繰り出された。再びアックスの持ち手で弾く。しかし、レオは後退せずに続けて三打目を打ち込んだ。

リザはレオの攻撃を受け止めつつ、思考をフル回転させていた。レオの言動から、城の惨事は彼が起こしたことで間違いがないだろう。
何故?
『父さんが死んで喜んでいる』そう言っていた…
王は、死んだのか?
否、あの強い方がそう簡単に…とは思うが実際レオ様の今の状態がそれをはっきりと肯定している。
武国の掟の一つに『国王、または王位継承者を殺した者は次の王に即位できる』というものがある。
国王が死んだ事が事実ならば、確実に狙われるのは王位継承者のレオ様だ。
王になれば、国の全てが自分の思うままに操れるだろう。
武国だけではない。
自分達の武力を使えば、五つ国全てを制圧することも可能だ。だから、王位を欲しがる者は後を絶たない。
王が死んだ…そして、レオ様は命を狙われる。
詳しい経緯は分からないが、城に倒れていた兵士達の説明は、これで、ハッキリした。

「っ、レオ様!!落ち着いてください!!あたしは━!」
リザは自身の耳も痛くなる位大きく叫んだ。しかし、それは相手に届かなかった。
レオは一瞬の隙を見て、リザへの間合いを詰める。その勢いを殺さず、肘でリザの腹へ一撃を打ち込む。
リザは少し後方へ押し出され、一瞬顔をしかめた。しかし、怯む事はなかった…否出来なかった。目の前にレオが迫っている。
『敵』を『殺す』という少しのブレもない視線を向けてきている。まるで理性のない野獣のように…

リザは大きく後ろへ跳んだ。その最中に手にするアックスを上下逆に持ち替え、

「レオ様…申し訳ありません」

そう呟き、思い切りアックスを横に振った。
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