Esperanza Leon(完結)
武国王が出発してから一カ月が過ぎた。その間は何の変化もない、平和な日々が続いている。
レオは城兵と共に修練を積み、毎日国々の見回りをする。
たまに友人…他国の王位継承者の元へ顔を出し、他愛もない話をした。
もちろん国王としての仕事もこなす。書類に目を通したり、住民の話を聞いたり…
一年のほぼ半分は父の代理を務めている。昔からそうやって暮らしてきたから、もう国王の仕事は慣れっこだ。
他国の王位継承者たちだってこんなに"国王代理"なんてやったことがないだろう。
…いや、ラルゴはやっているかもしれないが…
他の者たちはやっていない。ほんの少しだけ優越感を感じる。
そんな事を考えつつ、フッと溜息を吐くと、レオは謁見の間の玉座に腰掛けた。
今日は週一回定期的に行っている各領主を集めての会議の日である。
大した会ではない。ただ領で何かがあったか、ないか…それを報告しあうだけである。
確かに有事の際は大事なことかもしれないが、今のような平和ボケの起きそうな時には…
「ふああ…」
「…カマル殿、寝不足ですか?」
「んぁ…ぁああ、すみません」
今のように大欠伸してしまう位の扱いである。
大欠伸したカマル近衛兵長が笑って、集った一同に頭を下げるのを確認してから、レオはいつも通り会議の開始を告げようと口を開いた。
「では、早速だが定例会議をはじめ━」
「レオ様!!!」
レオが言葉を紡ぎ出した瞬間、謁見の間の扉が乱暴に開けられた。
その場にいる全員が振り返り、開かれた扉へ視線を集中させた。
扉には城の兵士が息を切らせて立っている。
そして、その兵士の肩にはボロボロの鎧を着た男が片腕を抱えられ、ダラリと引き摺られていた。
レオにはボロボロ鎧の男に見覚えがあった。
──父と共に海へと旅立った兵士の一人だ。
その瞬間、立ち上がったレオは全身の血が凍りついたように冷たくなったのを感じた。
「レ…おっごぼっごぼっ」
「しっかりしろ!」
…恐らく肺に血が流れ込んでいるのだろう。傷付いた兵士は何か言おうとしたが、出たのは血だけだった…
上手く息も吸えず、呼吸の音が明らかにおかしい。
足元を見ると、おぞましい量の血が水たまりのように揺れている。
ここまで運んできた兵士は必死で彼に声をかけているが…もう誰の目から見ても助からない事は明白だった。
…父の帰りは、予定ではまだ一週間ある。
早まったとしても、あの派手好きの父が静かに着港するはずがない。
港からもその気配はしなかった。城に帰還した、という気配もしなかった。
…共に出掛けた兵士が一人で城に帰って来た。しかも瀕死で。
レオは一瞬目眩を感じた。しかし、足はしっかりと踏みしめ次の言葉を待った。
傷付いた兵士は同士に支えられ、ゆっくりとレオの瞳に顔を向けた。
…すでに目も見えていないのかもしれない。焦点は合わず、震え、泣いていた。
「れ、おざ、ま…」
「……」
「ずみばっ…ごぼっ…ずみ、ませ…ん…ず、みまぜっ…うっぶっぐぐ…おぉ、お…王はっ…し…死にました──!!!」
一同はざわめき、兵士は倒れ、レオは玉座へ崩れ落ちた。
━━父が死んだ
━国王が死んだ
━━皆の君主が
━名君カジキ王が海で死んだ。
『何故?』とは問えなかった。
元より聞けるはずがない。傷付いた兵士は…すでに役目を終えている。
同時に、視界と脳内がはっきり白くなるのを感じた。
否定と疑問が木霊する。幻聴だろうか?
いや、むしろ今の報告が幻聴であって欲しい。
あの父が突然、前触れもなく、突然死ぬワケがない!!
何かの間違いだ。そうに決まっている。
海の覇者と呼ばれた男が、海で負けるわけがない。
五つ国でもその強さは右に出るものはいない。
父は強い。
強い父が、偉大な国王が、どうして死ぬのだ?
他大陸の海賊に襲われたのだろうか?
嵐に巻き込まれたのだろうか?
突然病に冒されたのだろうか?
自殺したのか?
何故?どうして?何故?何故?何故?
━…どんなに考えようとも、否定しようと、国王の姿は
もう亡い。
レオは国王の死を受け入れるしかなかった。
レオは城兵と共に修練を積み、毎日国々の見回りをする。
たまに友人…他国の王位継承者の元へ顔を出し、他愛もない話をした。
もちろん国王としての仕事もこなす。書類に目を通したり、住民の話を聞いたり…
一年のほぼ半分は父の代理を務めている。昔からそうやって暮らしてきたから、もう国王の仕事は慣れっこだ。
他国の王位継承者たちだってこんなに"国王代理"なんてやったことがないだろう。
…いや、ラルゴはやっているかもしれないが…
他の者たちはやっていない。ほんの少しだけ優越感を感じる。
そんな事を考えつつ、フッと溜息を吐くと、レオは謁見の間の玉座に腰掛けた。
今日は週一回定期的に行っている各領主を集めての会議の日である。
大した会ではない。ただ領で何かがあったか、ないか…それを報告しあうだけである。
確かに有事の際は大事なことかもしれないが、今のような平和ボケの起きそうな時には…
「ふああ…」
「…カマル殿、寝不足ですか?」
「んぁ…ぁああ、すみません」
今のように大欠伸してしまう位の扱いである。
大欠伸したカマル近衛兵長が笑って、集った一同に頭を下げるのを確認してから、レオはいつも通り会議の開始を告げようと口を開いた。
「では、早速だが定例会議をはじめ━」
「レオ様!!!」
レオが言葉を紡ぎ出した瞬間、謁見の間の扉が乱暴に開けられた。
その場にいる全員が振り返り、開かれた扉へ視線を集中させた。
扉には城の兵士が息を切らせて立っている。
そして、その兵士の肩にはボロボロの鎧を着た男が片腕を抱えられ、ダラリと引き摺られていた。
レオにはボロボロ鎧の男に見覚えがあった。
──父と共に海へと旅立った兵士の一人だ。
その瞬間、立ち上がったレオは全身の血が凍りついたように冷たくなったのを感じた。
「レ…おっごぼっごぼっ」
「しっかりしろ!」
…恐らく肺に血が流れ込んでいるのだろう。傷付いた兵士は何か言おうとしたが、出たのは血だけだった…
上手く息も吸えず、呼吸の音が明らかにおかしい。
足元を見ると、おぞましい量の血が水たまりのように揺れている。
ここまで運んできた兵士は必死で彼に声をかけているが…もう誰の目から見ても助からない事は明白だった。
…父の帰りは、予定ではまだ一週間ある。
早まったとしても、あの派手好きの父が静かに着港するはずがない。
港からもその気配はしなかった。城に帰還した、という気配もしなかった。
…共に出掛けた兵士が一人で城に帰って来た。しかも瀕死で。
レオは一瞬目眩を感じた。しかし、足はしっかりと踏みしめ次の言葉を待った。
傷付いた兵士は同士に支えられ、ゆっくりとレオの瞳に顔を向けた。
…すでに目も見えていないのかもしれない。焦点は合わず、震え、泣いていた。
「れ、おざ、ま…」
「……」
「ずみばっ…ごぼっ…ずみ、ませ…ん…ず、みまぜっ…うっぶっぐぐ…おぉ、お…王はっ…し…死にました──!!!」
一同はざわめき、兵士は倒れ、レオは玉座へ崩れ落ちた。
━━父が死んだ
━国王が死んだ
━━皆の君主が
━名君カジキ王が海で死んだ。
『何故?』とは問えなかった。
元より聞けるはずがない。傷付いた兵士は…すでに役目を終えている。
同時に、視界と脳内がはっきり白くなるのを感じた。
否定と疑問が木霊する。幻聴だろうか?
いや、むしろ今の報告が幻聴であって欲しい。
あの父が突然、前触れもなく、突然死ぬワケがない!!
何かの間違いだ。そうに決まっている。
海の覇者と呼ばれた男が、海で負けるわけがない。
五つ国でもその強さは右に出るものはいない。
父は強い。
強い父が、偉大な国王が、どうして死ぬのだ?
他大陸の海賊に襲われたのだろうか?
嵐に巻き込まれたのだろうか?
突然病に冒されたのだろうか?
自殺したのか?
何故?どうして?何故?何故?何故?
━…どんなに考えようとも、否定しようと、国王の姿は
もう亡い。
レオは国王の死を受け入れるしかなかった。
