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Esperanza Leon(完結)

≪五つ国歴551年≫
五つ国大陸の中でも、温暖な場所に位置する武国ホド。
野蛮で粗暴と言われればそれで仕舞いだが、情に厚く賑やかな王、カジキが国全体をまとめていた。
差別も貧困もない、理想的な国。
そんな武国の城がいつもよりも騒がしく騒めいていた。

城内の廊下を颯爽と歩く一人の男。
その後ろには幼い少年、その他屈強な兵士達大勢が続く。
一団が城門まで辿り着くと、先頭の男がクルリと振り返った。

「っしゃ!!出航日和な青空だぜ!!お前達もご機嫌になっちまうだろ!!はっはっはっ!!」
「…父さん、くれぐれも無事に…」
「何だよおいっ!ご機嫌じゃないねぇ?もっと砕けようぜ、親父様の船出の日なんだからよぉ!ほれほれ、ニコッとな!」
先頭の男は豪快に笑い、一歩前に出た少年の両頬を引っ張る。
少年はなすがままだ…

先頭の男こそ、武国国王カジキである。
そして頬を引っ張られた少年が今年12歳となる王位継承者…武国王子のレオだ。

カジキ王はその名の通り、カジキマグロが大好物である。
否、『マグロ』と付くと勘違いしてしまうかもしれないがカジキマグロはマグロではない。
カジキマグロと言う名前は俗称であり、カジキはメカジキ、マカジキの二科からなる個体だ。
マグロとは味も全く違う。マグロと同一視されるのは困る!!
…とカジキ王は熱弁するが、聞かされる方には何ら興味のない事である。
特に毎日のようにカジキマグロについて聞かされるレオ王子にとっては耳にタコ…いやいや耳からカジキマグロが生まれそうな位、飽き飽きしている話だ。

そんな王は定期的に海へと漁に出掛ける。好物のカジキマグロを捕る為に。
それは一日やそこらで戻れる漁ではない。
カジキマグロは遠い南の海にしか生息していない貴重な魚だ。
たまに偶然で五つ国大陸周辺海域にも迷い込むのだが、数は少ない。
それに捕る者がいない。国の王が働こうとしないので、民もろくに漁に出ないのだ。
だから、カジキ王自ら漁に出る。
今の時代、自分から動かないと好物もとい食料にもありつけないのだ。

そんな事情がある事はレオも理解している。飢えのないようにと、民の為に食料を自ら運んでくる王の苦労も分かる。
だが、長期自分の城を空けるのには…辟易していた…

「いいか?俺がいない間はお前が率先して働くんだぞ」
「…はいはい」
「うっし、良い返事だ!俺もご機嫌で国を任せられるぜ!!」
「……国王はアナタ一人しかいないのだから、早く帰って来るように。はっきり言って、私に城の兵士をまとめる力はないから」
レオは溜息交じりにキッパリ言うと父を睨んだ。
武国はカジキ王の人徳と強さで成り立っているようなものである。
次期王位継承者とはいえ、子供のレオには国は重過ぎる。
そんな感情を言葉の端々に乗せた事を察しているのか、いないのか、カジキはプッと息を漏らし、周りの兵士と一緒に笑った。
「レオ様は相変わらず真面目だなぁ」
「カジキ様も少しは見習うべきですよ」
「はっはっはっ、だなぁ!!全く誰に似たんだかなぁ…レオ!!」
カジキは一瞬目を細めると、レオの頭をガシガシと撫でた。
「お前は本当に母親そっくりだな。真面目ですぐに悪い方向に考えちまう損な性格だ…まっ、そこがお前の長所なんだけどなっ」
「褒めてるのか、それ…?」
「褒めてんだよ!好きだぜ、そんなとこがさ。ご機嫌になるね!」
「……」
カジキはひとしきりレオの頭を撫でると、パッと離れて周りの兵士を見回した。
ここに集まったのは国に残る精鋭たちだ。
もちろん王の護衛として付いて行く兵士もいるが、すでに彼らは港で出航の準備をしているだろう。
王はそんな城を守り残る者達の瞳を一人一人見つめ、満面の笑みを浮かべて言った。
「あえて言う事はない!!城を、国を、五つ国を任せた!生きてまた会おう!!」
カジキが拳を天に向かって突き上げると、一同も威勢の良い声を上げて、それに応えた。
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