過去編

ここではないどこか遠い世界。
広い広い海の辺境に、小さな大陸が浮いていました。

緑に覆われ、動物達に溢れ、争いもなく人々が暮らす平和な平和な大陸。
小さな大陸には王国が五つ並んでいます。

法と知を司る国『ケフラー』
創造と自由を司る国『ティファレト』
武力と守護を司る国『ホド』
商業と工業を司る国『コクマー』
生産と生命を司る国『イエソド』

五つの国は均等を保ち、人々は平和で豊かな日々を過ごしていました。

慈悲に溢れた知王。
厳しくも名君と謳われた創王。
身分人種分け隔てなく接し海の覇者と呼ばれた武王。
寡黙だが造り出す物は神をも恐れると言われる工王。
死する者にさえも生を与える農王。

人々は五人の王の元でいつまでも平和な日々が過ごせると思っていました。

しかし
その終末は何の前触れもなく訪れたのでした…

・・・
最初の異変は武国から始まった。

遠くの海へ航海に出掛けた武王が死んだ、という報告が入ったのだ。
航海へ共に出掛けた兵士のうち、生きて五つ国の土を踏めた者は報告をした男ただ一人。

武王が死したと全国へ知れ渡った夜、次は創王が謎の死を遂げる。
顔が判別出来ないぐらい切り裂かれ、王の部屋は赤く紅く染まっていたという。
部屋の端に王子が蹲っていたが、彼はすでに心が粉々になっていた。

異変は止まらなかった。
次の夜には知王が腹を刺されて事切れてしまった。
王は襲われていた王子を庇ったらしい。
幸い王子には傷一つなかった━…が、犯人の事に関しては口を閉ざした。

工王の死に関しては公表されていない。
誰もが禁忌のように、何もなかったかのように王の事に触れようとしない。
ただ、知王の死の直後に亡くなった事は確かだった。
唯一詳細を知っているであろう王子は何も語らない…

状況を重く見た農王は突然王を辞任した。
同時に息子…王子達に王を継承させる。
その後の農王の情報はない。


五つ国の平和はこの一瞬にて崩れ落ちた。
前例のない、異例の事態だった。
先は安定しない騒乱の日々が始まる。
後に人々は以降二十年を『暗黒の時代』と呼ぶことになる━…
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