タイトルなんかねぇよ

気付いたら外が暗くなっていた。
そろそろ帰ろうかと思って自転車にまたがったら

「馬鹿じゃねーのお前ェ――!!」

首領パッチがもの凄い形相でこちらを指さしてきた。


「な、何が?」

「馬っ鹿じゃねーのお前ェ―――――!!?」

『だから何が!?』

二度私が聞き返すと彼は渋い表情で空に片手をかざす。


「寒いだろうがァ!自転車なんかで帰ったら風邪引くだろうがァァ!?」

「あー…、別に平k」

「乗ーれーよーーー!オレの首領パッチカーに乗れよーーーーー!!」


そう言って彼が示したのはクリスマスツリー(電飾ON)の刺さったお年寄り用の三輪車だった。


「ライドオーーーーーン!!!!」

「いらない。」

言って自分の自転車に乗ってさっさと走り去る。
背後では彼相変わらず騒がしくしていたが、
振り返ってみたら私と反対方向のスーパーまで猛スピードで走り出していた。
自由すぎるだろ。







―――――――――――――――



「……。」

手元の体温計は38.5℃
風邪だ、完全に風邪だ。
昨日素直に送っていってもらえば良かっただろうか。
でも例の車とやらも座席は丸出しの自転……三輪車だ。
ついでに彼のことだ、絶対に時速40キロほどで走るに決まっている。
寒さならあっちの方が上だっただろう。

「じゃあどうすりゃよかったんだ…。」

『だから!DA・KA・RA!こんにゃくシールド装備して行きなさいってお母さん言ったでしょ!!』

「!?」

いつの間にか布団のすぐ側に買い物袋を引っ提げた首領パッチが仁王立ちしていた。


「どっから入ったの!?」

『馬鹿ね…伝書鳩はいつだって窓辺からやってくるのよ…』

「窓閉めてあるよ!?」

「素敵なお手紙届けに来たポッポー」


手渡された手紙。開いてみると便箋には『ドッキングにぼし』の絵が描かれていた。

「……。」

紙をくしゃくしゃと丸めてその辺に放る。
首領パッチは悔し泣きしながら窓辺に『敗訴』と書かれた紙を持って走っていった。


「って言うか…何しに来たの?」

「え?お前が風邪引いたからウィルス退治しに来てやったんだよ。」


スッと買い物袋に手を入れ、取り出したのは…


「この首領パッチソードでな!」



―――――どう見てもネギでした―――――



「帰って良いよ。」

「何言ってるんDA!ここで奴を倒さなきゃSEKAI NO OWARIだ!!」


そして奴はネギを手に、ソレで私をぶん殴ってきた。


「風邪菌めー!!」

「ゴホォッ!?」

「滅せられよーーーー!!」

『お前がな!!』

『芽キャベツッ!!』

水入りのペットボトルを脳天に振り下ろすと大人しくなった。
私ね、ネギで往復ビンタされたのなんて初めてだよ!


「用事がないならホント帰って…具合悪…。」

「何よ!ちょっとしたジョークじゃない!アンタはすぐそうやって病弱ヒロインの座を奪いに来るんだから!!」

「冷蔵庫にあるプリン(賞味期限切れ)あげるから帰って。」

「マジで!? おっしゃー!帰るぞーーー!!て馬鹿!!帰らねーよ!!」

「ッチ…」

「今度こそこの首領パッチソードでーーーー!!」


目にも止まらぬ速さで台所まで走っていった。
あぁ…散らかされそう…。イヤ…。
聞こえてくる騒音に耳を傾けると、どうも冷蔵庫の扉を何度も高速で開け閉めしているらしい。
やめろ!!
途中で「美味えぇぇぇーーーー!!」という叫びが聞こえたのでプリンは無事に食われたようだ。
楽しみにとっといたんだけどな。(賞味期限切れ)
あとついでに何かの悲鳴が聞こえた気がした。


―――――――――――――――


(恐らく)プリンが駆逐されてからしばらくの間は静かだった。
台所と居間を繋ぐ戸がギィィィ…とひどい軋みを立ててゆっくり開かれた。
そこから現れたのは湯気に包まれサングラスとマスクで顔を隠し、炊飯器を持った首領パッチ。


「それ……何……」

炊飯器の噴出口から蒸気がとめどなく立ち上っている。
私の炊飯器に何をした。


『ククク…、ついに完成したのだよ……、伝説の剣を犠牲にな…!』

「だから何が!?」

『見よ…、これが新しい首領パッチソードの姿だァア!!』

パカッとフタが開いた炊飯器の中身は出来たてのおじや。


「え?作ってくれたの?」

「おうよ!首領パッチソード第三形態だ!」

「あ、本当だ。ネギ入ってる。」

「ネギじゃないの!首領パッチソード!あと白き輝きの宝玉だ!」

「玉子だね。」

「宝玉!」

「食べて良い?」

「いいよ。」

(あんだけ引っ張ったのにやけにあっさり。)


スプーンを手渡され、一口食べてみる。
おだしが効いていてすごく美味しい。
ネギはかなり大量に入っているらしく、どこをつっついてもネギだらけだ。


「ネg…首領パッチソード入れすぎじゃない?」

「まーなー。三本も犠牲にしちまったぜ。」

「随分入れたね…」

「風邪には首領パッチソードが効くってオバーナ・チャンの堪忍袋。」

「美味しい。」

「当然じゃないの!オレ様のトゲエキスが隠し味だしな!」

『アレ入っちゃってるの!?』

「あとは田楽マンの田楽味噌とー、ライスの米とー、ギターにしたバターとー、添え物は漬け物の一部。」

『割とオールスター!?』

「混ぜる時しゃもじ親子のママの方使ったぜ。」

「お…おう……。…でもこれ本当に美味しいなー。
 結構まったりしてると思ったらバターと味噌入ってるんだ。」

「ちなみにダシはドッキング煮干しです。」

『さっきのあの手紙!?』

「味わって食えよ!」

「え?あ、うん。ありがとう。」

「あっと、そうだ。」

「何?」

「氷枕ぬるくなったんじゃね?新しいの持ってくるわ。」

彼は再び台所へ。
…知らなかった。首領パッチがこんなに気遣い上手で、更には美味しいおじやまで作ってくれるなんて。
普段はわけの分からないコンペートーおじさんだけど意外と優しいんだ。
おじやの美味しさも相まって顔が自然にほころぶ。


「おまたせー。」

「あ、ありがt…………」

首領パッチの手に握られ……いや抱えられていたのは


「特大の氷枕だぜ!」

「途中で食べても良いんだぜ!醤油掛けてな!」


―――――どう見ても ところ天の助でした。


「ごめん、それはいらない。」


今回の風邪は長引かずに治りそうだ。
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