ついた嘘はたった一つだけ
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*支部に掲載した1話の夢野幻太郎視点
「……ああ、億劫だ」
幻太郎が忘れ物をしたことに気が付いたのは、図書館を出てしばらく経ってからだった。鞄の中に入れっぱなしだった文集を気紛れに出したのが間違いだった。
幻太郎は図書館へ戻ってきた。文集は確かにあった。しかし、その文集は同い年くらいの少女の手にあった。どうしようか、と幻太郎は逡巡する。
図書館へ戻ってきたのは文集を回収するためだ。しかし、目の前の少女は熱心に文集を読んでいるようだった。そこそこの読書家である幻太郎は、不意に本の世界から引き戻される煩わしさを知っていた。
だから幻太郎は気遣い半分、気紛れ半分で少女が文集を手放すまで待つことにした。この後の予定は特になかった上、素人の文集なんてすぐに飽きるだろうと思ったのである。文集は幻太郎の所属する文芸部で刷られたものだった。当然その中に幻太郎の書いた小説もある。
幻太郎が図書館へ戻ってしばらく経った。少女は幻太郎の予想に反して文集を読み進めている。幻太郎が対面の席に座っても気付く様子はない。その姿は無類の本好きであり、幻太郎の知る限り同級生にはいなかった。幻太郎に若干の好奇心が人知れず芽生える。それだけで少女が幻太郎の癖に半ばなっている、人間観察の対象になるのは決まったも同然だった。
まず少女は幻太郎に上品だという感想を抱かせた。軽く先が内に巻かれた髪は烏の濡れ羽色をしており、傷みなんて知らないとでも言いたげだった。上向きの睫毛、控えめなパールの目元、艶やかな唇。同い年くらいに見えるのに、すでに少女は自分がどうしたら良く見えるか知っていた。
派手じゃないのに華がある。背伸びをしたピアス、無駄に煌めいた目元、染料で傷められた髪を持つ同級生とは大違いだと幻太郎は思う。身につけている小物一つ、洋服、靴に至るまで全てが洗練されていた。そして何故かそれが疑念を生んだ。
そろそろ読み終わるだろうか、といった頃だった。幻太郎が少女をいいところのお嬢様だと結論付け、興味が少女から遠ざかった頃でもあった。
幻太郎は他所へ移していた視線を何となしに少女に戻した。そこで幻太郎は信じられないものを見た。ぶわり、と何かが幻太郎の体を駆け巡る。目が、逃してたまるものかと再び少女に惹き付けられる。
幻太郎の口から、は、と小さく息が漏れた。
先程までの少女の雰囲気を喩えるなら、穏やかな波打ち際のような静かさだった。大人びた雰囲気は、悪く言えば無味無臭。子供らしさという年相応の個性を捨てていた。
だが!どうだろう!幻太郎は少し前の自分を笑いたくなった!
幻太郎は鮮烈な輝きを少女に見た。少女の表情は幻太郎の知る誰のものよりも美しかった。このままでは内側から焼き焦がされる。幻太郎はらしくもない情動に突き動かされそうになった。
何が、どうして、なんだ、何故、誰が、彼女を、こうさせた。
あまりの衝撃に幻太郎は自らが1と0になって崩れ落ちる錯覚にさえ陥った。これは見ていても良いものなのかという思いと、反して逸らすことは許されないという思いの矛盾は幻太郎の身を割かんばかりだった。幻太郎は、幻太郎は、身震いした。それは歓喜であり悲哀であり慟哭であり愉悦であった。
後に幻太郎は少女に見たものは、人が恋に落ちる瞬間だということを理解することになる。同時に幻太郎に生まれたものは、とここで言うこともできるがそれは野暮と言うものだろう。
ここで明かせるのはこれから幻太郎は少女を振り回すようで、同時に振り回されるということだ。涼しい顔の下に隠した素顔についての言及もここではなしにしよう。
夢野幻太郎、それはただ一人の嘘つきだ。
「それ、面白かったですか?」
だから、何も思ってない風に話しかけることも出来てしまうのである。
*支部に掲載していた「ついた嘘が真実をもって明かされる時」の蛇足
夢野さんが青年との経験から人を追いかける勇気や執着を得ていて欲しさの願望詰め込み回。
この小説の時間軸はざっくり、高校の初めくらいに夢野さんと青年が出会う→青年病気になる→嘘つき爆誕→夢主と出会う。という感じです。青年の生死については、公式が見解を出さない限りこの先言及しないと思います。
ちなみにリーマンさんとはあの後、リーマンさんが去ろうとしたところを夢主が引き止める→夢主が母親に連絡→母親がリーマンさんの会社に経緯を説明→リーマンさんが夢主の立場に慄くものの夢主は無事懐くのワンセット。リーマンさんの正体は皆さんなら言わなくてもわかるはず……
*支部に掲載した「ついた嘘は何かの種になりうるのか」のオマケ
メッセージアプリでの普段のやり取りはだいぶしょうもない
(小ネタです。本編より夢主はっちゃけ気味……?)
*某国民的ヒーローの台詞について
幻太郎: あなたがよく言っている言葉で
幻太郎:愛と勇気だけが友達という無性に悲
しいものがありますが
幻太郎:それには何か元ネタが?
幻太郎:言いたくないのなら別に良いのですが
なまえ:気になっちゃいましたか?
幻太郎:そう言われると別に
幻太郎:と言いたくなりますよね
なまえ:またそういうこと言う……
幻太郎:で?
なまえ:うっ
なまえ:しかし、ここはメッセージアプリ
なまえ:普段とは違って主導権は私にだって……!
幻太郎:次会った時
幻太郎:覚えておけよ
なまえ:愛と勇気だけが友達という台詞は頭がアンパンな国民的ヒーローのものです。そのヒーローは人を勇気づけるために自分の頭の一部を人に分け与える、自己犠牲の精神を持っています。
なまえ:いつもいつも突然の敬語の消失止めましょう??
なまえ:末恐ろしいとはこのことです
よ……!
幻太郎:頭がアンパンな国民的ヒーロー?
なまえ:はい、?
幻太郎:頭の一部を人にあげる?
なまえ:そうです!
幻太郎:お前の頭には餡が詰まっているのか
なまえ:前々から思ってましたけど、幻太郎くんの素ってだいぶ酷くないですか??
なまえ:毒舌魔神
幻太郎:麻呂には分からないでおじゃる
*年上の男の人へのプレゼントについて
なまえ:社会人の男性って何を貰ったら嬉しいのでしょうか?
幻太郎:誰かの誕生日でもあるんですか?
なまえ:いえ、
なまえ:ここ最近でお世話になった方がいて、その方にお礼を、と
幻太郎:ここ最近?
なまえ:はい
幻太郎:社会人の男と学生のあなたにどんな関係が?
なまえ:それは別にいいじゃないですか…!
なまえ:とにかく、お礼がしたくてですね……!
なまえ:間違ってもやましいことなんてありませんし
幻太郎:まあ、深くは追求しないにしても
幻太郎:あなたの家だと使用人に適当に用意させたら事足りるのでは?
なまえ:それでは、お礼の気持ちを込めたことにならないじゃないですか
幻太郎:ハンカチ
なまえ:なんでそう縁起の悪いものばかりを
幻太郎:そうでしたか?
なまえ:そうですよ…!
なまえ:とぼけたってわかります!
*支部に掲載した完結のあとがき
この小説で何が伝えたかったか、なんてたいそうなものでは無いのですが、トリップという体験をした主人公が自分を世界の異物だと認識する中で、夢野さんとの出会いを通して自分を受け入れ、夢野さんやその他自分以外の人、そして今いる世界を受け入れていく過程が上手くかは分かりませんが満足いく形で書けたかなと思います。
トリップした主人公がすぐにその環境に順応するのでは無く、不器用に藻掻いてその先に一つの答えを見つけるのが好きなんです。
夢主について
この夢主すごく突発的だし、うじうじしているし皆様に受け入れられるのかすごく不安でした。しかし、懸念していたような声はなく、小説にも温かい声が多く寄せられて本当に嬉しかったです。ありがとうございます。
夢野さんについて
最初は彼に落ちるつもりなんてなかったんです!私もそんなことを言いがちなオタクの一人でした。今ではぽっせ箱推しです。愛おしいぽっせ。
私の描いた夢野さん像は器用そうで不器用、青年との思い出(公式でまだふわっとしか触れられていませんが)により、精神的に曲がらない一つの芯を持ったイメージです。夢主が立場的にも精神的にもふわふわしている中、リードをできる強さを持っています。夢主に対しては少し強引なところがありますが、バランス的に上手くいくと思います。
ラストの木春菊について
主人公の絵に描かれた少女が持っていた木春菊はマーガレットの和名です。四月一日、夢野さんの誕生花で花言葉は真実の愛。それを知った時にこれは絶対話の中に入れないと!と思い満を持しての登場でした。主人公の画家設定(?)も上手くいかせたのではないかな、と思います。
夢野幻太郎と転生トリッパーはこれにて完結です。本当にありがとうございました!番外や次作など、また皆様に出会える時があればそれ以上に嬉しいことはありません。
「……ああ、億劫だ」
幻太郎が忘れ物をしたことに気が付いたのは、図書館を出てしばらく経ってからだった。鞄の中に入れっぱなしだった文集を気紛れに出したのが間違いだった。
幻太郎は図書館へ戻ってきた。文集は確かにあった。しかし、その文集は同い年くらいの少女の手にあった。どうしようか、と幻太郎は逡巡する。
図書館へ戻ってきたのは文集を回収するためだ。しかし、目の前の少女は熱心に文集を読んでいるようだった。そこそこの読書家である幻太郎は、不意に本の世界から引き戻される煩わしさを知っていた。
だから幻太郎は気遣い半分、気紛れ半分で少女が文集を手放すまで待つことにした。この後の予定は特になかった上、素人の文集なんてすぐに飽きるだろうと思ったのである。文集は幻太郎の所属する文芸部で刷られたものだった。当然その中に幻太郎の書いた小説もある。
幻太郎が図書館へ戻ってしばらく経った。少女は幻太郎の予想に反して文集を読み進めている。幻太郎が対面の席に座っても気付く様子はない。その姿は無類の本好きであり、幻太郎の知る限り同級生にはいなかった。幻太郎に若干の好奇心が人知れず芽生える。それだけで少女が幻太郎の癖に半ばなっている、人間観察の対象になるのは決まったも同然だった。
まず少女は幻太郎に上品だという感想を抱かせた。軽く先が内に巻かれた髪は烏の濡れ羽色をしており、傷みなんて知らないとでも言いたげだった。上向きの睫毛、控えめなパールの目元、艶やかな唇。同い年くらいに見えるのに、すでに少女は自分がどうしたら良く見えるか知っていた。
派手じゃないのに華がある。背伸びをしたピアス、無駄に煌めいた目元、染料で傷められた髪を持つ同級生とは大違いだと幻太郎は思う。身につけている小物一つ、洋服、靴に至るまで全てが洗練されていた。そして何故かそれが疑念を生んだ。
そろそろ読み終わるだろうか、といった頃だった。幻太郎が少女をいいところのお嬢様だと結論付け、興味が少女から遠ざかった頃でもあった。
幻太郎は他所へ移していた視線を何となしに少女に戻した。そこで幻太郎は信じられないものを見た。ぶわり、と何かが幻太郎の体を駆け巡る。目が、逃してたまるものかと再び少女に惹き付けられる。
幻太郎の口から、は、と小さく息が漏れた。
先程までの少女の雰囲気を喩えるなら、穏やかな波打ち際のような静かさだった。大人びた雰囲気は、悪く言えば無味無臭。子供らしさという年相応の個性を捨てていた。
だが!どうだろう!幻太郎は少し前の自分を笑いたくなった!
幻太郎は鮮烈な輝きを少女に見た。少女の表情は幻太郎の知る誰のものよりも美しかった。このままでは内側から焼き焦がされる。幻太郎はらしくもない情動に突き動かされそうになった。
何が、どうして、なんだ、何故、誰が、彼女を、こうさせた。
あまりの衝撃に幻太郎は自らが1と0になって崩れ落ちる錯覚にさえ陥った。これは見ていても良いものなのかという思いと、反して逸らすことは許されないという思いの矛盾は幻太郎の身を割かんばかりだった。幻太郎は、幻太郎は、身震いした。それは歓喜であり悲哀であり慟哭であり愉悦であった。
後に幻太郎は少女に見たものは、人が恋に落ちる瞬間だということを理解することになる。同時に幻太郎に生まれたものは、とここで言うこともできるがそれは野暮と言うものだろう。
ここで明かせるのはこれから幻太郎は少女を振り回すようで、同時に振り回されるということだ。涼しい顔の下に隠した素顔についての言及もここではなしにしよう。
夢野幻太郎、それはただ一人の嘘つきだ。
「それ、面白かったですか?」
だから、何も思ってない風に話しかけることも出来てしまうのである。
*支部に掲載していた「ついた嘘が真実をもって明かされる時」の蛇足
夢野さんが青年との経験から人を追いかける勇気や執着を得ていて欲しさの願望詰め込み回。
この小説の時間軸はざっくり、高校の初めくらいに夢野さんと青年が出会う→青年病気になる→嘘つき爆誕→夢主と出会う。という感じです。青年の生死については、公式が見解を出さない限りこの先言及しないと思います。
ちなみにリーマンさんとはあの後、リーマンさんが去ろうとしたところを夢主が引き止める→夢主が母親に連絡→母親がリーマンさんの会社に経緯を説明→リーマンさんが夢主の立場に慄くものの夢主は無事懐くのワンセット。リーマンさんの正体は皆さんなら言わなくてもわかるはず……
*支部に掲載した「ついた嘘は何かの種になりうるのか」のオマケ
メッセージアプリでの普段のやり取りはだいぶしょうもない
(小ネタです。本編より夢主はっちゃけ気味……?)
*某国民的ヒーローの台詞について
幻太郎: あなたがよく言っている言葉で
幻太郎:愛と勇気だけが友達という無性に悲
しいものがありますが
幻太郎:それには何か元ネタが?
幻太郎:言いたくないのなら別に良いのですが
なまえ:気になっちゃいましたか?
幻太郎:そう言われると別に
幻太郎:と言いたくなりますよね
なまえ:またそういうこと言う……
幻太郎:で?
なまえ:うっ
なまえ:しかし、ここはメッセージアプリ
なまえ:普段とは違って主導権は私にだって……!
幻太郎:次会った時
幻太郎:覚えておけよ
なまえ:愛と勇気だけが友達という台詞は頭がアンパンな国民的ヒーローのものです。そのヒーローは人を勇気づけるために自分の頭の一部を人に分け与える、自己犠牲の精神を持っています。
なまえ:いつもいつも突然の敬語の消失止めましょう??
なまえ:末恐ろしいとはこのことです
よ……!
幻太郎:頭がアンパンな国民的ヒーロー?
なまえ:はい、?
幻太郎:頭の一部を人にあげる?
なまえ:そうです!
幻太郎:お前の頭には餡が詰まっているのか
なまえ:前々から思ってましたけど、幻太郎くんの素ってだいぶ酷くないですか??
なまえ:毒舌魔神
幻太郎:麻呂には分からないでおじゃる
*年上の男の人へのプレゼントについて
なまえ:社会人の男性って何を貰ったら嬉しいのでしょうか?
幻太郎:誰かの誕生日でもあるんですか?
なまえ:いえ、
なまえ:ここ最近でお世話になった方がいて、その方にお礼を、と
幻太郎:ここ最近?
なまえ:はい
幻太郎:社会人の男と学生のあなたにどんな関係が?
なまえ:それは別にいいじゃないですか…!
なまえ:とにかく、お礼がしたくてですね……!
なまえ:間違ってもやましいことなんてありませんし
幻太郎:まあ、深くは追求しないにしても
幻太郎:あなたの家だと使用人に適当に用意させたら事足りるのでは?
なまえ:それでは、お礼の気持ちを込めたことにならないじゃないですか
幻太郎:ハンカチ
なまえ:なんでそう縁起の悪いものばかりを
幻太郎:そうでしたか?
なまえ:そうですよ…!
なまえ:とぼけたってわかります!
*支部に掲載した完結のあとがき
この小説で何が伝えたかったか、なんてたいそうなものでは無いのですが、トリップという体験をした主人公が自分を世界の異物だと認識する中で、夢野さんとの出会いを通して自分を受け入れ、夢野さんやその他自分以外の人、そして今いる世界を受け入れていく過程が上手くかは分かりませんが満足いく形で書けたかなと思います。
トリップした主人公がすぐにその環境に順応するのでは無く、不器用に藻掻いてその先に一つの答えを見つけるのが好きなんです。
夢主について
この夢主すごく突発的だし、うじうじしているし皆様に受け入れられるのかすごく不安でした。しかし、懸念していたような声はなく、小説にも温かい声が多く寄せられて本当に嬉しかったです。ありがとうございます。
夢野さんについて
最初は彼に落ちるつもりなんてなかったんです!私もそんなことを言いがちなオタクの一人でした。今ではぽっせ箱推しです。愛おしいぽっせ。
私の描いた夢野さん像は器用そうで不器用、青年との思い出(公式でまだふわっとしか触れられていませんが)により、精神的に曲がらない一つの芯を持ったイメージです。夢主が立場的にも精神的にもふわふわしている中、リードをできる強さを持っています。夢主に対しては少し強引なところがありますが、バランス的に上手くいくと思います。
ラストの木春菊について
主人公の絵に描かれた少女が持っていた木春菊はマーガレットの和名です。四月一日、夢野さんの誕生花で花言葉は真実の愛。それを知った時にこれは絶対話の中に入れないと!と思い満を持しての登場でした。主人公の画家設定(?)も上手くいかせたのではないかな、と思います。
夢野幻太郎と転生トリッパーはこれにて完結です。本当にありがとうございました!番外や次作など、また皆様に出会える時があればそれ以上に嬉しいことはありません。