ハンター試験編
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青い袋を手に提げる私は帰路を急いでいた。そして袋の中身を思ってはこらえきれない笑みを漏らす。その袋の中には発売当初から凄まじい人気で、やっとこさ再販分を手に入れることのできたキャラクターグッズが入っていた。そんな私の種族は言わなくても分かると思うけれど、陰に生きる代名詞オタクである。(でも最近は光のオタクが増えている気がするけれど……)
走り出したいのをこらえている私。その心は一刻も早く帰って戦利品を確認したいのだ。しかし運が悪いことに、街頭アンケートに引っかかった。
「お時間ちょっとでいいので、ご協力お願いできませんかね」
「え、あ、はい……」
人からのお願いを断り切れないタイプ。心の中では目の前の青年に悪態をついているものの、表面に出るのは気弱で情けない部分だけだ。無視して早々に去るという選択肢をすぐに放棄してしまった私は良い鴨だ。自分のことながらドナドナされやすい筆頭だと思う。
「では、どうぞ」
どこででも見るようなボールペンとバインダーに挟まれたアンケート用紙を受け取った私は、気持ちを切り替えてすぐにアンケートに取り掛かる。しかし、その一つ目の項目にしておや、と思ったのだった。
『あなたが最近ハマっている漫画はなんですか?』
オタク街だし、こんなアンケートも珍しくないのかもしれない。小難しいことや、全く興味のないことを聞かれると思っていた私の機嫌は予想外の得意分野の質問に上を向いた。
最近ハマっている漫画と聞かれて一番初めに思い浮かんだのはHUNTER×HUNTERだった。ちょうど数日前に読み返して再熱したところだった。綴りが若干怪しかったのはご愛嬌で次の項目に進む。
『あなたが今まで触れてきた作品の中で、特に思い入れのあるキャラクターは誰ですか?』
これは迷う。本当に。数々のジャンルに手を出してきた身からすれば、推しも当然多いわけで。まず初めに思い浮かんだのが生涯最推しを確信しているとある少年だったけれど……思い入れというところで若干引っかかった。思い入れと言われて浮かんだのはレベル上げ。そこで私は最推しと迷った結果、執念でレベルマスキルマフォウマ果てには宝具5に持って行ったとあるゲームの推しの名前を書くことにした。
ステンノ、そう書いたところで、辺りの空気の変質を感じ取った。
「ん?」
どこだここは。顔を上げた私の目に映ったのは地下室のような薄暗くも広い場所。そして何より特筆すべきは人、人、人。男ばかりというのも私の顔を引きつらせるには十分だった。刺すよう、というよりは信じられないようなものを見たような目で全視線が私に集まっている恐怖感、不快感。
先ほどまで私がいた街は、青年は、アンケートは、先ほどまで持っていたはずの青い袋も何故か存在しなかった。そこにいたはず、目の前にいたはず、手に持っていたはず、手に提げていたはずなのに。
「あの、番号札をお取りください」
呆然と立ち尽くす私に誰かの声が聞こえた。辺りを見渡した後、目線を下げるとその正体がわかった。それも私を困惑させるだけだったけれど。
「豆、が喋った」
「はい私は豆ですビーンズです。この役割が無ければあなたに尽くせるのに……!」
「なにこれこわい」
いきなり尽くそうとしてくれる豆。その衝撃で抜けていたけれど、どこかで見たことがあるような気がする。それもつい最近。
「……あの、つかぬことをお伺いしますが、ここはどこですか?」
「ハンター試験の会場にございます」
その途端つい先ほどアンケートに書いた漫画の名前が脳裏をよぎった。性質の悪い夢だと頬を抓ったら、そのまま痛みがやってきた。じわじわと現状に真実味が増してきて、身震いした。豆が私を心配そうに見ていた。そう言えは君も登場人物だったね。そんな心底こちらを慮ると言わんばかりの顔をするのなら、どうにか私を元の場所に返してくれないだろうか。手にある120の番号札が恨めしい。
「こんなの……無理。絶対死んじゃう」
このような不可思議な状況には覚えがあった。幾度となく夢小説という媒体で見てきたトリップという現象。ただそれはあくまでフィクションであるから楽しめるのであって、現実自分に降りかかってきたら絶望でしかない。トリップ先が、人が次々と死んでしまうようなバトル漫画だったらなおさらだ。
じわり、と涙が滲んできたその時だった。
「俺と一緒に来るなら守ってやってもいいぜ」
背後から投げかけられたのはどこかで聞いたことのあるような声だった。こうなってくると予想なんて簡単につくもので。
「俺、キルア。あんたは?」
振り返ると予想通り、もう一人の主人公がいた。銀髪猫っ毛の文句なしの将来有望イケメン男子。バクバクと煩い心臓の音とは反対で、私はキルアというキャラクターはここまで背が大きかったかと割りと落ち着いた思考をしていた。もしかしたら、現実逃避や混乱が一周回ったのかもしれない。
何か言わなければ、そう思ってするりと口から零れた言葉は、私の意思とは全く別のものだった。
「私は、ステンノ」
今、私、自分でなんて言った?
へー、変わった名前。でも、俺は嫌いじゃないぜ。なんて手練れのナンパ師も真っ青な台詞を言ってみせたキルアに私の頭は鈍い痛みを発したような気がした。とにかく私は長姉様ではない。訂正しようと口を開いた。
「いや、違くて、私は」
「ん?」
「ステンノ」
その後に否定の言葉は何故か言うことが出来なかった。いや、キャラクターを自分に重ね合わせる年齢はとっくに過ぎ去ったはず。それでも私の意思とは反対にやはり否定の言葉を発することは叶わない。ここでまた脳裏をよぎるのはアンケートに書いた名前だった。嫌な予感がすごくする。
「変な名前って言ったの気にしてんの?……だから、その名前も嫌いじゃないって」
「あの、キルア、くん」
「キルアでいい。さっきから様子おかしいけど、緊張して、」
キルアの言葉を遮ったことを申し訳なく思えるほど、私には余裕がなかった。視界の端で揺れている紫の髪や白のフリル。何故今まで気が付かなかったのだろう。
「……客観的に見た私の容姿ってどんな感じ?」
「はあ?何でいきなりそんなこと聞いてくんのか分かんねーけど……めちゃくちゃ可愛いぜ。今まで見たことないってくらいには」
その返答で私は確信することになった。何故主要キャラクターであるキルアが話しかけて来て、あり得ないくらいに好意的なのか。ここの人のおかしかった私への反応、豆の挙動。全てが全てある答えに集約される。
着ている白いドレスを摘み上げた。
女神ステンノ、偶像としての男の憧れの具現。私はあろうことか推しに成り代わってしまったらしい。
走り出したいのをこらえている私。その心は一刻も早く帰って戦利品を確認したいのだ。しかし運が悪いことに、街頭アンケートに引っかかった。
「お時間ちょっとでいいので、ご協力お願いできませんかね」
「え、あ、はい……」
人からのお願いを断り切れないタイプ。心の中では目の前の青年に悪態をついているものの、表面に出るのは気弱で情けない部分だけだ。無視して早々に去るという選択肢をすぐに放棄してしまった私は良い鴨だ。自分のことながらドナドナされやすい筆頭だと思う。
「では、どうぞ」
どこででも見るようなボールペンとバインダーに挟まれたアンケート用紙を受け取った私は、気持ちを切り替えてすぐにアンケートに取り掛かる。しかし、その一つ目の項目にしておや、と思ったのだった。
『あなたが最近ハマっている漫画はなんですか?』
オタク街だし、こんなアンケートも珍しくないのかもしれない。小難しいことや、全く興味のないことを聞かれると思っていた私の機嫌は予想外の得意分野の質問に上を向いた。
最近ハマっている漫画と聞かれて一番初めに思い浮かんだのはHUNTER×HUNTERだった。ちょうど数日前に読み返して再熱したところだった。綴りが若干怪しかったのはご愛嬌で次の項目に進む。
『あなたが今まで触れてきた作品の中で、特に思い入れのあるキャラクターは誰ですか?』
これは迷う。本当に。数々のジャンルに手を出してきた身からすれば、推しも当然多いわけで。まず初めに思い浮かんだのが生涯最推しを確信しているとある少年だったけれど……思い入れというところで若干引っかかった。思い入れと言われて浮かんだのはレベル上げ。そこで私は最推しと迷った結果、執念でレベルマスキルマフォウマ果てには宝具5に持って行ったとあるゲームの推しの名前を書くことにした。
ステンノ、そう書いたところで、辺りの空気の変質を感じ取った。
「ん?」
どこだここは。顔を上げた私の目に映ったのは地下室のような薄暗くも広い場所。そして何より特筆すべきは人、人、人。男ばかりというのも私の顔を引きつらせるには十分だった。刺すよう、というよりは信じられないようなものを見たような目で全視線が私に集まっている恐怖感、不快感。
先ほどまで私がいた街は、青年は、アンケートは、先ほどまで持っていたはずの青い袋も何故か存在しなかった。そこにいたはず、目の前にいたはず、手に持っていたはず、手に提げていたはずなのに。
「あの、番号札をお取りください」
呆然と立ち尽くす私に誰かの声が聞こえた。辺りを見渡した後、目線を下げるとその正体がわかった。それも私を困惑させるだけだったけれど。
「豆、が喋った」
「はい私は豆ですビーンズです。この役割が無ければあなたに尽くせるのに……!」
「なにこれこわい」
いきなり尽くそうとしてくれる豆。その衝撃で抜けていたけれど、どこかで見たことがあるような気がする。それもつい最近。
「……あの、つかぬことをお伺いしますが、ここはどこですか?」
「ハンター試験の会場にございます」
その途端つい先ほどアンケートに書いた漫画の名前が脳裏をよぎった。性質の悪い夢だと頬を抓ったら、そのまま痛みがやってきた。じわじわと現状に真実味が増してきて、身震いした。豆が私を心配そうに見ていた。そう言えは君も登場人物だったね。そんな心底こちらを慮ると言わんばかりの顔をするのなら、どうにか私を元の場所に返してくれないだろうか。手にある120の番号札が恨めしい。
「こんなの……無理。絶対死んじゃう」
このような不可思議な状況には覚えがあった。幾度となく夢小説という媒体で見てきたトリップという現象。ただそれはあくまでフィクションであるから楽しめるのであって、現実自分に降りかかってきたら絶望でしかない。トリップ先が、人が次々と死んでしまうようなバトル漫画だったらなおさらだ。
じわり、と涙が滲んできたその時だった。
「俺と一緒に来るなら守ってやってもいいぜ」
背後から投げかけられたのはどこかで聞いたことのあるような声だった。こうなってくると予想なんて簡単につくもので。
「俺、キルア。あんたは?」
振り返ると予想通り、もう一人の主人公がいた。銀髪猫っ毛の文句なしの将来有望イケメン男子。バクバクと煩い心臓の音とは反対で、私はキルアというキャラクターはここまで背が大きかったかと割りと落ち着いた思考をしていた。もしかしたら、現実逃避や混乱が一周回ったのかもしれない。
何か言わなければ、そう思ってするりと口から零れた言葉は、私の意思とは全く別のものだった。
「私は、ステンノ」
今、私、自分でなんて言った?
へー、変わった名前。でも、俺は嫌いじゃないぜ。なんて手練れのナンパ師も真っ青な台詞を言ってみせたキルアに私の頭は鈍い痛みを発したような気がした。とにかく私は長姉様ではない。訂正しようと口を開いた。
「いや、違くて、私は」
「ん?」
「ステンノ」
その後に否定の言葉は何故か言うことが出来なかった。いや、キャラクターを自分に重ね合わせる年齢はとっくに過ぎ去ったはず。それでも私の意思とは反対にやはり否定の言葉を発することは叶わない。ここでまた脳裏をよぎるのはアンケートに書いた名前だった。嫌な予感がすごくする。
「変な名前って言ったの気にしてんの?……だから、その名前も嫌いじゃないって」
「あの、キルア、くん」
「キルアでいい。さっきから様子おかしいけど、緊張して、」
キルアの言葉を遮ったことを申し訳なく思えるほど、私には余裕がなかった。視界の端で揺れている紫の髪や白のフリル。何故今まで気が付かなかったのだろう。
「……客観的に見た私の容姿ってどんな感じ?」
「はあ?何でいきなりそんなこと聞いてくんのか分かんねーけど……めちゃくちゃ可愛いぜ。今まで見たことないってくらいには」
その返答で私は確信することになった。何故主要キャラクターであるキルアが話しかけて来て、あり得ないくらいに好意的なのか。ここの人のおかしかった私への反応、豆の挙動。全てが全てある答えに集約される。
着ている白いドレスを摘み上げた。
女神ステンノ、偶像としての男の憧れの具現。私はあろうことか推しに成り代わってしまったらしい。