ハンター試験編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
最初は絶望しか感じていなかったハンター試験もついに残すは最終試験のみ。目まぐるしく濃い日々をすごす中で、ついに棄権するという選択肢を忘れ去ってしまっていたことは今更ながら私を驚かせた。ここまで来ると今更脱落するのを勿体なく感じるのは読者心か。それとは別に、最終試験の「脱落者一人」という形式が引っかかっているのもあるけれど(確実に大きいのは前者の思いである)
「見れば見るほど可愛らしいお嬢さんじゃな」
最終試験を前にしたハンター協会会長であるネテロとの面談の部屋は完全な和室。畳から香る井草の匂いが懐かしく思わず目を細めた。机を挟んで会長とは対面となる。懐かしい日を思い出す。まるで家庭訪問みたいだ。
「…えっと、ありがとうございます」
「そんな緊張せんでも取って食うことはせんよ。これは最終試験を前にちょいと質問をする程度のことじゃ。それで、なぜハンターになりたいのかな?」
何故ハンターになりたいのか。その質問に対して、分からない、というより少し前までの私なら何かを答えることさえ出来なかっただろう。
私はトリップ、そして成り代わりという現象によりこの世界に予告も無くやってきた。気が付けば試験会場にいたあの日から今までのことを思い返す。緊張は解けない。こわばっているだろう表情のまま私は口を開いた。
「私が、私がハンター試験を受けることになったのは、全く予期していないことでした」
「ほう、それで?」
「でも、試験を受けていくうちに……自分が何故ここにいるのか、そのヒントになると思いました。あまり、上手くは言えないんですけど…これが答えになるのかも分からないんですけど」
脳裏をよぎるのはあの赤髪の奇術師。ヒソカはまるで私自身のことについて知っているような素振りをみせた。原作との乖離は私を不安にさせると同時に、その先にある何かを予感させた。
私がここにいるのは偶然なのではなく、必然であったとしたのなら。
全てを言い切った時、会長の目は思いのほか優しかった。握りしめていた手から少しだけ力が抜けた。
「予期しない出来事は長く生きてこればそれなりにある。そこでどんな選択を取るかはその出来事に遭遇した本人の特権、おぬしはそれに遭うのが少し人よりも早かったようじゃが……我武者羅に楽しむがよいよい」
「、はい」
「では、次におぬし以外の八人の中で一番注目しているのを聞かせてもらおうかの」
「405番と99番、あと403番と404番です」
その四人は最初から決まっていた。メイン四人組、ということもあるけれど行動の多くを共にしていたらやはり特別視はしてしまう。太陽と影が溶け込んだように馴染んだ不思議な四人。ピースが上手く合わさったというのは言いえて妙だ。
「ふむ……では最後の質問じゃ。八人の中で今一番戦いたくないのは?」
「44番と301番です」
誰とも戦いたくないというのが正直などころだが、その中でもヒソカ、そしてイルミは正体を知っていたら戦いたくない筆頭だろう。作中で最強だと明言された戦闘狂とそれと同等の実力を持った暗殺一家の長男。長姉様のスキルを行使するのも何故だか恐ろしい。
「うむ。御苦労じゃった」
「えっと、ありがとうございました」
「……会長としては一人を贔屓するわけにはいかんからな、これはただの老いぼれとしてじゃが、おぬしがこれから何をなすか、ちょっと楽しみでもあるんじゃよ」
戸を閉める寸前で伝えられたこと。それだけで最終試験も大丈夫な気がした……なんて、少し単純だろうか。
***
トーナメント方式で誰か一人だけ不合格者となる最終試験。私は第五試合、レオリオと戦うことになった。ここは戦いたくない二人と一番に当たる、という意地悪な結果じゃなかったことを喜ぶべきだろう。ちらりと目が合ったレオリオは微妙な顔をしていた。レオリオが一緒に行動することも多かった私との戦闘を受け入れがたく思っているのは明白だった。救えなかった友人の為に医者を目指す彼はどこまでも人間的で優しいのだ。
ハンゾー対ゴン、クラピカ対ヒソカ、ハンゾー対ポックル、ヒソカ対ボドロの試合は知っている流れの通りに終わった。知っているというのは一種の傲慢だ。神の視点に立ったつもりでいて、現実で見る直接的な暴力に精神は怯えている。
三時間に渡ったハンゾー対ゴンの試合が私に及ぼした影響は大きかった。ゴンに振るわれる一方的で苛烈な攻撃の数々は、私が今まで見ないふりをしてきたものを思い出させるには十分だった。見たくないのに目が逸らせなかった。苦しいのに顔を背けることをしなかったのは私に残された小さな自己満足の意地だ。
試験では何人もの受験生が死んでいった。怖いと言いながら直接的に見ることが殆どなかったせいか、それこそアニメを見ているように一歩引いたところにいる感覚だった。日を経るにつれこの世界に対する恐怖は徐々に薄れていったのだと思い込んでいた。しかし、実際はどうだろう。生まれてからずっといた世界の倫理観がたった数週間で塗りつぶされることがあるだろうか。慣れでも何でもない、麻痺、自己防衛だったのではないだろうか。
守られるだけの偶像。自分自身と現状への不信感が噴き出した。脳がぐらりと揺れた。誰かの悲鳴で耳が満たされた。大袈裟なブレーキ音、鮮烈な光が瞼の裏に映った気がした。全てが全て一瞬のことだった。残酷な白昼夢に精神は疲弊していた。
「ステンノ?……おい!」
私の意識を呼び醒ましたのは隣にいたキルアだった。小生意気そうに見える猫目は今ばかりは心配の色を隠そうともしていない。一般とはかけ離れた環境で育ったキルアはどことなくズレを感じさせることが多々あった。それでも、私をずっと守ってくれたこと、時折向けられる優しさは本物だった。キルアからの優しさを我が物顔で受け取っていた事実を前に、この後を知る人間として長い目で見たハッピーエンドに安心していた自分の無邪気さを突き付けられたような気がした。私はこの世界の今を軽んじている、という自覚。この後キルアは別人に扮していた彼の兄であるイルミと対峙することになる。その瞬間、私はキルアの心に本当の意味で寄り添えるのだろうか。
「……キルア……ごめんね」
理由も告げずに謝るこの行為は偽善にすらならない。私はどこまでも自分勝手だ。
「第五試合!レオリオ対ステンノ!」
そして私は舞台に立つ。
「見れば見るほど可愛らしいお嬢さんじゃな」
最終試験を前にしたハンター協会会長であるネテロとの面談の部屋は完全な和室。畳から香る井草の匂いが懐かしく思わず目を細めた。机を挟んで会長とは対面となる。懐かしい日を思い出す。まるで家庭訪問みたいだ。
「…えっと、ありがとうございます」
「そんな緊張せんでも取って食うことはせんよ。これは最終試験を前にちょいと質問をする程度のことじゃ。それで、なぜハンターになりたいのかな?」
何故ハンターになりたいのか。その質問に対して、分からない、というより少し前までの私なら何かを答えることさえ出来なかっただろう。
私はトリップ、そして成り代わりという現象によりこの世界に予告も無くやってきた。気が付けば試験会場にいたあの日から今までのことを思い返す。緊張は解けない。こわばっているだろう表情のまま私は口を開いた。
「私が、私がハンター試験を受けることになったのは、全く予期していないことでした」
「ほう、それで?」
「でも、試験を受けていくうちに……自分が何故ここにいるのか、そのヒントになると思いました。あまり、上手くは言えないんですけど…これが答えになるのかも分からないんですけど」
脳裏をよぎるのはあの赤髪の奇術師。ヒソカはまるで私自身のことについて知っているような素振りをみせた。原作との乖離は私を不安にさせると同時に、その先にある何かを予感させた。
私がここにいるのは偶然なのではなく、必然であったとしたのなら。
全てを言い切った時、会長の目は思いのほか優しかった。握りしめていた手から少しだけ力が抜けた。
「予期しない出来事は長く生きてこればそれなりにある。そこでどんな選択を取るかはその出来事に遭遇した本人の特権、おぬしはそれに遭うのが少し人よりも早かったようじゃが……我武者羅に楽しむがよいよい」
「、はい」
「では、次におぬし以外の八人の中で一番注目しているのを聞かせてもらおうかの」
「405番と99番、あと403番と404番です」
その四人は最初から決まっていた。メイン四人組、ということもあるけれど行動の多くを共にしていたらやはり特別視はしてしまう。太陽と影が溶け込んだように馴染んだ不思議な四人。ピースが上手く合わさったというのは言いえて妙だ。
「ふむ……では最後の質問じゃ。八人の中で今一番戦いたくないのは?」
「44番と301番です」
誰とも戦いたくないというのが正直などころだが、その中でもヒソカ、そしてイルミは正体を知っていたら戦いたくない筆頭だろう。作中で最強だと明言された戦闘狂とそれと同等の実力を持った暗殺一家の長男。長姉様のスキルを行使するのも何故だか恐ろしい。
「うむ。御苦労じゃった」
「えっと、ありがとうございました」
「……会長としては一人を贔屓するわけにはいかんからな、これはただの老いぼれとしてじゃが、おぬしがこれから何をなすか、ちょっと楽しみでもあるんじゃよ」
戸を閉める寸前で伝えられたこと。それだけで最終試験も大丈夫な気がした……なんて、少し単純だろうか。
***
トーナメント方式で誰か一人だけ不合格者となる最終試験。私は第五試合、レオリオと戦うことになった。ここは戦いたくない二人と一番に当たる、という意地悪な結果じゃなかったことを喜ぶべきだろう。ちらりと目が合ったレオリオは微妙な顔をしていた。レオリオが一緒に行動することも多かった私との戦闘を受け入れがたく思っているのは明白だった。救えなかった友人の為に医者を目指す彼はどこまでも人間的で優しいのだ。
ハンゾー対ゴン、クラピカ対ヒソカ、ハンゾー対ポックル、ヒソカ対ボドロの試合は知っている流れの通りに終わった。知っているというのは一種の傲慢だ。神の視点に立ったつもりでいて、現実で見る直接的な暴力に精神は怯えている。
三時間に渡ったハンゾー対ゴンの試合が私に及ぼした影響は大きかった。ゴンに振るわれる一方的で苛烈な攻撃の数々は、私が今まで見ないふりをしてきたものを思い出させるには十分だった。見たくないのに目が逸らせなかった。苦しいのに顔を背けることをしなかったのは私に残された小さな自己満足の意地だ。
試験では何人もの受験生が死んでいった。怖いと言いながら直接的に見ることが殆どなかったせいか、それこそアニメを見ているように一歩引いたところにいる感覚だった。日を経るにつれこの世界に対する恐怖は徐々に薄れていったのだと思い込んでいた。しかし、実際はどうだろう。生まれてからずっといた世界の倫理観がたった数週間で塗りつぶされることがあるだろうか。慣れでも何でもない、麻痺、自己防衛だったのではないだろうか。
守られるだけの偶像。自分自身と現状への不信感が噴き出した。脳がぐらりと揺れた。誰かの悲鳴で耳が満たされた。大袈裟なブレーキ音、鮮烈な光が瞼の裏に映った気がした。全てが全て一瞬のことだった。残酷な白昼夢に精神は疲弊していた。
「ステンノ?……おい!」
私の意識を呼び醒ましたのは隣にいたキルアだった。小生意気そうに見える猫目は今ばかりは心配の色を隠そうともしていない。一般とはかけ離れた環境で育ったキルアはどことなくズレを感じさせることが多々あった。それでも、私をずっと守ってくれたこと、時折向けられる優しさは本物だった。キルアからの優しさを我が物顔で受け取っていた事実を前に、この後を知る人間として長い目で見たハッピーエンドに安心していた自分の無邪気さを突き付けられたような気がした。私はこの世界の今を軽んじている、という自覚。この後キルアは別人に扮していた彼の兄であるイルミと対峙することになる。その瞬間、私はキルアの心に本当の意味で寄り添えるのだろうか。
「……キルア……ごめんね」
理由も告げずに謝るこの行為は偽善にすらならない。私はどこまでも自分勝手だ。
「第五試合!レオリオ対ステンノ!」
そして私は舞台に立つ。
16/16ページ