ハンター試験編
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夢を見た気がする。サーヴァントは夢を見ないから気のせいだったのだろうか。それともサーヴァントとマスターは記憶の共有が起きることがあるから、知らないだけで私にもマスターが存在するのだろうか、と、そこまで考え付いたところで私は気が付いた。
思考は私のもののはずなのに、いつの間にか今の自分がサーヴァントであることへの疑問が徐々に薄れてきている。人の生死がいつも簡単に決定づけられるこの世界に来たのも、まして別人として行動することになったのも私自身の意思ではない。諦め、が一番適切なのだろうか。生き残るために本来私のものではないはずの力を行使することに何の戸惑いも覚えなかった。
私は私のままなのだろうか。そう思ってしまうことが何よりも恐ろしかった。
「やあ」
深淵にすら辿り着いてしまいそうな思考は突如として霧散することになる。語尾のハートが可視化できそうな愉快な調子で話しかけてくる男を私は一人しか知らなかった。そもそもこんな場所に隠れている私の居場所が分かるのは、言いふらしでもしない限り連れてきた男しかいないのだ。
「ヒ、ソカ…さ、」
「さんはいらないけど。元気にしてた?」
「はあ、」
ヒソカはしゃがみ込んで洞を覗きこんでいた。少し前に会ったところだろう。そう思い訝し気にする私にヒソカは肩をすくめた。
「ちなみにボクがキミをここに連れてきてから五日経ってる。律儀に毎日訪れるボクを前にキミは今の今まで寝こけていたわけさ」
「うそだ」
「嘘ならよかったのにね。明日が試験の期日だよ」
相変わらず本心の掴めない様子で話すヒソカに、からかわれている可能性が胸の中で大きくなるもそれすらヒソカにはお見通しらしい。私は何も言っていないのに牽制のような言葉を投げられることになった。
「どうせ明日になれば本部から受験者への招集がかかるから、それで確かめられるけどね」
「……うん」
ヒソカ自身に関することでもないのに長々と嘘を引っ張るのも違うか、時間が経つにつれてそちらの方が正しいような気がしてきたけれど、五日間も寝こけていた事実が受け入れがたかった。ゲーム攻略のためにオールを繰り返していた頃を思い出したのは完全な余談だ(しかも一日以上寝入ることはなかった)
「過ぎたことを考えるのは無意味なことだと思わないかい?」
洞の中で首を傾げる私の身体をヒソカが掴んだ。突然のことに呆然として固まる私をそのままヒソカは洞の外へ出した。夜が徐々に強くなっていく時間帯だ。月が出ていた。
「食べなよ」
「、えっと」
「ほら」
そのまま木の下に座らされ、ヒソカから謎の実をグイグイと押し付けられているのは一体どういうことだろう。拒否しようにもできなさそうな奇妙な押しの強さに根負けしたのは数十秒の後だったように思う。毒の危険を指摘する間もなくヒソカも同じ実を隣で食べているのだからしょうがない。特にこの試験中にヒソカと一緒にいる時間が多かった上に困惑するようなことばかり起きたから、どうにでもなれと自棄を起こしたのも否定できないけれど。
「……おいしい」
「でしょ」
「ありがとうございます」
「敬語はいらないけどね」
「ずっと気になってたんだけど、どうして呼び捨てとため口がいいの」
「好みかな」
「(なるほど、わからん)」
今回の試験でヒソカのイメージは良くも悪くも変わることになったけれど、相変わらずその美貌の横顔からは何か形になりそうなものは読み取れない。性質の悪い夢でも見ているようだ、そう思った自分に苦笑する。紙面上でヒソカの残虐性は幾度となく目にしてきたはずなのに、危険性の一切排除された目の前のヒソカも嘘には見えないのだ。ふと目を離した瞬間に牙を剥かれる可能性もあるというのにこの瞬間私の警戒心は仕事を放棄している。
「……次は最終試験かあ」
「嫌かい」
「そもそも私自身はここにいること自体が間違いというか」
「間違いなんてものは人生に存在しないとボクは思うけどね」
「奇術師に人生を説かれるのも変な感じ」
私がそういうと返ってきたのは無言だった。急に返事がなくなったことを不思議に思って隣を見るとヒソカは肩を震わせて笑っていた。邪悪さが一欠片も存在しない少年のような顔に私は目を丸くする。これは一体誰なのだろう。
「そうやって笑っていれば皆から好かれるのに」
「人に好かれようが嫌われようがどうでもいいじゃないか」
「うわ、ヒソカが言いそう」
「ここに存在するのは紛れもないボク自身だからね」
何度考えてもここは私のいるべき世界ではなくて、隣に座っている好青年風の青年は快楽主義の殺人鬼だということは変わらなくて。それなのに不遜なこともポロポロと口から零れ出る私はおかしいのだろうか。この感情を安心と断定することはしたくないと思ったのは単に私の我儘だ。
ヒソカとの時間は穏やかに過ぎていった。眠る気にもなれない私に付き合うようにヒソカもずっと起きていた。同じ調子で言葉を交わしていたわけではない。不意に喋り出したり黙ったりを一晩中繰り返した。空は夜を深めそして朝に変わっていく。
昼になる前にヒソカの言う通り試験の終了を告げるアナウンスがあった。木の洞まで連れてこられた時と同じ体勢で抱えられ、スタート地点まで戻る。試験の通過が認められたところですぐに降ろされた。この試験中ヒソカは本当に私を助けるために動いていたのだ。
「借りは少し返済したってことでいいよね。女神サマ」
返事をする間もなくヒソカは私から離れていった。これまでの言動や行動からヒソカは私の知らない何かを知っているのは疑いようもなかった。いつか聞くことができるだろうか、そんなことを思っているとキルアがこのスタート地点に戻ってくるのが見えた。ゴン達もしばらくすれば来るだろう。
「ステンノ!おまっ……生きてたのかよ!」
「運がよくて」
「オレがずっと探してたのが馬鹿みたいじゃん」
「えっと……ありがとう?」
「……なんにせよ無事だったならいーけど」
キルアが手のひらを顔の前に出す。首を傾げていると反対の手で私の手を取って、同じように手のひらを前に出させた。
「ハイタッチ!」
パチン、と軽い音と手のひらに走る熱に思わず笑ってしまった。キルアなりにお互いの健闘を讃えたのだろう(特にキルアからすれば私がこの試験を無事に通過できたのは奇跡とかそういう類のことに思えたらしい)
「なんだかんだお前って次も大丈夫そうだよな」
「なにそれ」
四次試験を通過し最終試験への切符を手に入れることになるだなんて、最初は予想もしていなかった。自分のことながら信じられないのだと漏らす私にキルアは呆れたように笑うのだった。
思考は私のもののはずなのに、いつの間にか今の自分がサーヴァントであることへの疑問が徐々に薄れてきている。人の生死がいつも簡単に決定づけられるこの世界に来たのも、まして別人として行動することになったのも私自身の意思ではない。諦め、が一番適切なのだろうか。生き残るために本来私のものではないはずの力を行使することに何の戸惑いも覚えなかった。
私は私のままなのだろうか。そう思ってしまうことが何よりも恐ろしかった。
「やあ」
深淵にすら辿り着いてしまいそうな思考は突如として霧散することになる。語尾のハートが可視化できそうな愉快な調子で話しかけてくる男を私は一人しか知らなかった。そもそもこんな場所に隠れている私の居場所が分かるのは、言いふらしでもしない限り連れてきた男しかいないのだ。
「ヒ、ソカ…さ、」
「さんはいらないけど。元気にしてた?」
「はあ、」
ヒソカはしゃがみ込んで洞を覗きこんでいた。少し前に会ったところだろう。そう思い訝し気にする私にヒソカは肩をすくめた。
「ちなみにボクがキミをここに連れてきてから五日経ってる。律儀に毎日訪れるボクを前にキミは今の今まで寝こけていたわけさ」
「うそだ」
「嘘ならよかったのにね。明日が試験の期日だよ」
相変わらず本心の掴めない様子で話すヒソカに、からかわれている可能性が胸の中で大きくなるもそれすらヒソカにはお見通しらしい。私は何も言っていないのに牽制のような言葉を投げられることになった。
「どうせ明日になれば本部から受験者への招集がかかるから、それで確かめられるけどね」
「……うん」
ヒソカ自身に関することでもないのに長々と嘘を引っ張るのも違うか、時間が経つにつれてそちらの方が正しいような気がしてきたけれど、五日間も寝こけていた事実が受け入れがたかった。ゲーム攻略のためにオールを繰り返していた頃を思い出したのは完全な余談だ(しかも一日以上寝入ることはなかった)
「過ぎたことを考えるのは無意味なことだと思わないかい?」
洞の中で首を傾げる私の身体をヒソカが掴んだ。突然のことに呆然として固まる私をそのままヒソカは洞の外へ出した。夜が徐々に強くなっていく時間帯だ。月が出ていた。
「食べなよ」
「、えっと」
「ほら」
そのまま木の下に座らされ、ヒソカから謎の実をグイグイと押し付けられているのは一体どういうことだろう。拒否しようにもできなさそうな奇妙な押しの強さに根負けしたのは数十秒の後だったように思う。毒の危険を指摘する間もなくヒソカも同じ実を隣で食べているのだからしょうがない。特にこの試験中にヒソカと一緒にいる時間が多かった上に困惑するようなことばかり起きたから、どうにでもなれと自棄を起こしたのも否定できないけれど。
「……おいしい」
「でしょ」
「ありがとうございます」
「敬語はいらないけどね」
「ずっと気になってたんだけど、どうして呼び捨てとため口がいいの」
「好みかな」
「(なるほど、わからん)」
今回の試験でヒソカのイメージは良くも悪くも変わることになったけれど、相変わらずその美貌の横顔からは何か形になりそうなものは読み取れない。性質の悪い夢でも見ているようだ、そう思った自分に苦笑する。紙面上でヒソカの残虐性は幾度となく目にしてきたはずなのに、危険性の一切排除された目の前のヒソカも嘘には見えないのだ。ふと目を離した瞬間に牙を剥かれる可能性もあるというのにこの瞬間私の警戒心は仕事を放棄している。
「……次は最終試験かあ」
「嫌かい」
「そもそも私自身はここにいること自体が間違いというか」
「間違いなんてものは人生に存在しないとボクは思うけどね」
「奇術師に人生を説かれるのも変な感じ」
私がそういうと返ってきたのは無言だった。急に返事がなくなったことを不思議に思って隣を見るとヒソカは肩を震わせて笑っていた。邪悪さが一欠片も存在しない少年のような顔に私は目を丸くする。これは一体誰なのだろう。
「そうやって笑っていれば皆から好かれるのに」
「人に好かれようが嫌われようがどうでもいいじゃないか」
「うわ、ヒソカが言いそう」
「ここに存在するのは紛れもないボク自身だからね」
何度考えてもここは私のいるべき世界ではなくて、隣に座っている好青年風の青年は快楽主義の殺人鬼だということは変わらなくて。それなのに不遜なこともポロポロと口から零れ出る私はおかしいのだろうか。この感情を安心と断定することはしたくないと思ったのは単に私の我儘だ。
ヒソカとの時間は穏やかに過ぎていった。眠る気にもなれない私に付き合うようにヒソカもずっと起きていた。同じ調子で言葉を交わしていたわけではない。不意に喋り出したり黙ったりを一晩中繰り返した。空は夜を深めそして朝に変わっていく。
昼になる前にヒソカの言う通り試験の終了を告げるアナウンスがあった。木の洞まで連れてこられた時と同じ体勢で抱えられ、スタート地点まで戻る。試験の通過が認められたところですぐに降ろされた。この試験中ヒソカは本当に私を助けるために動いていたのだ。
「借りは少し返済したってことでいいよね。女神サマ」
返事をする間もなくヒソカは私から離れていった。これまでの言動や行動からヒソカは私の知らない何かを知っているのは疑いようもなかった。いつか聞くことができるだろうか、そんなことを思っているとキルアがこのスタート地点に戻ってくるのが見えた。ゴン達もしばらくすれば来るだろう。
「ステンノ!おまっ……生きてたのかよ!」
「運がよくて」
「オレがずっと探してたのが馬鹿みたいじゃん」
「えっと……ありがとう?」
「……なんにせよ無事だったならいーけど」
キルアが手のひらを顔の前に出す。首を傾げていると反対の手で私の手を取って、同じように手のひらを前に出させた。
「ハイタッチ!」
パチン、と軽い音と手のひらに走る熱に思わず笑ってしまった。キルアなりにお互いの健闘を讃えたのだろう(特にキルアからすれば私がこの試験を無事に通過できたのは奇跡とかそういう類のことに思えたらしい)
「なんだかんだお前って次も大丈夫そうだよな」
「なにそれ」
四次試験を通過し最終試験への切符を手に入れることになるだなんて、最初は予想もしていなかった。自分のことながら信じられないのだと漏らす私にキルアは呆れたように笑うのだった。