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くっつき虫


「君ってさ、しょっちゅう僕の後をついてくるけど、なんだかくっつき虫みたいだね」


近藤さんのお使いで村の外れまで来た帰り道、沖田さんの後ろを歩いていた私に向かって彼は唐突にそう言った。

「くっつき虫、ですか?」
「そう、くっつき虫。それか金魚のフン?」

私の方を振り返りながら楽しげに言葉を投げかけている様子を見るに、どうやら悪気はないようだ。ただ本当にそう思っているというだけで。

くっつき虫に金魚のフン。
実際に沖田さんや新選組にお世話になっている身なのだから何も間違いはないし、むしろ的確な表現だとも思う。だけど沖田さんまで、くっつき虫にくっつかれているとか、金魚のフンをくっつけているとか、そう思われているとしたなら申し訳がたたない。

「気がつかなくてすみません。もう少し離れて歩きますね」

勢いよく頭を下げると、頭を下げたまま沖田さんが歩き出すのを待つ。だけど足音は遠ざかるどころか近づいてきたのだから、不思議に思って顔を上げる。すると沖田さんの声が真上から降ってきた。

「そうじゃなくて、隣を歩けばいいんじゃない?」

言い終わるのも待たずに沖田さんに手を引かれて歩く。私はというと突然のこの状況に頭がついていかなくて、彼の名前を呼ぶだけで精一杯で。

「あの、沖田さん!?」
「どうしたの?」

ぴたり、と足を止めた沖田さんは口元を緩ませながら私を視界に捕らえるために少し後ろを向いた。すると先程までよりも声を弾ませながら一歩後ろに下がった。

「ごめんごめん。これだとさっきまでと同じ前と後ろのままで、隣同士ではなかったね」

私と同じ歩幅で、隣にいる沖田さんが歩く。繋がれた手の先には楽しそうに口角を上げた沖田さんがいて、目が合うと「どうしたの?」と首を傾げる。

「……沖田さんが勘違いされてしまいますよ」
「千鶴ちゃんは男装をしているから僕に男色の気があるって?それはそれで面白くていいんじゃないかな」
「そうですよ。どこで誰が見ているのかも分からないんですから」
「君は心配しすぎ。こんな村外れで、しかも夕暮れ時に人なんてそうそういないよ」

周りを見渡してみても、記憶を辿ってみてもそういえば周りに人がいた覚えは全然なくて。
チラリと沖田さんを見上げてみたら「それとも僕と手を繋ぐのは嫌?」なんて少し困ったように眉を下げるから、嫌だから離してくださいなんていう嘘が言えるわけもなくて。

「……嫌では、ないです」
「そっか」

繋がれている手にきゅっと力が込められると沖田さんはやっぱり嬉しそうに笑った。


繋がれている手と顔と、それから耳までもが熱くなったのはきっと、夕暮れ時の山に沈んでいく真っ赤な太陽の所為ではなくて、私の隣で歩く沖田さんの笑顔と分かりにくいけれど誰よりも大きな優しさの所為だ。
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