手は繋げないから
お会計を済ませると、カゴからカバンへと買ったものを詰め込む。
ハルヒに教えてもらったように重いものは下へ、軽いものは上へ。このカバンに買ったものを詰め込む作業が僕は結構好きだ。
だって、買った食材を見ながらハルヒは何を作るのだろうとか、シャンプーを見ながら今日もハルヒの髪からはいい香りがしていたなとか、そういう色々なことを考えられるから。
そうして改めて考えてみると、最初こそは面倒に思っていた庶民スーパーでの買い物も案外悪くない。
ハルヒと歩いて庶民スーパーへ行って、カートを押したりカゴを持ったりして店内を見て回って、また歩いて家へ帰って。
何気ないハルヒとのこういう時間が嬉しいし幸せだなと感じる。だから出来るだけ買い物は二人で行こうねと決めた。
「ハルヒ、カバンに詰めたよ。これでいいよね?」
「うん、大丈夫だよ。ありがとう、馨」
「どーいたしまして」
そんなやり取りをすると、カゴを仕舞う。
今日は特売でポイントが三倍だからってハルヒが張り切って買い物をしていた。だから二つあるカバンはどちらもパンパンで、その上、五箱付きのティッシュだってある。
「ハルヒはティッシュね」
「自分もカバン一つ持つよ」
「ダイジョーブだって。僕、そんないかにもな庶民ティッシュを持ってる所なんて見られたくないもん。だからハルヒがティッシュね」
そう言ってハルヒにティッシュを押し付けると両手にそれぞれカバンを持った。
「馨、重くない?」
家への帰り道、ハルヒは何度か聞いてきた。
そんなに心配しなくったって、僕だって男なんだしハルヒよりは絶対に力もあるのに。
別にハルヒがそんなことを思って聞いてきているわけではないのは分かってる。だけどやっぱりなんか面白くないんだよね。
「ハルヒ。手、貸して」
「手?どうするの?」
差し出されたハルヒの左手に、右手側のカバンを差し出す。
ハルヒは一瞬不思議そうに僕を見たけど、またすぐにカバンを見た。
「やっぱり重かったよね。自分が持つよ」
そう言ってハルヒがカバンを持とうとした。だから自分の体の方にカバンを近づけると、ハルヒはまたもや不思議そうに僕を見た。
「どうしたの?」
「ハルヒに持って欲しいのはカバンの持ち手なんだ。片方持ってよ」
「なんだ、そういうこと。分かったよ」
ふふっと笑ったハルヒが僕の手のひらの中から片方の持ち手を取り出すと、先程よりも軽くなった。
「ハルヒにも重さのお裾分け、だよ」
「全然重くないけどね」
「そっか」
再び笑ったハルヒにつられて僕も笑う。
これから先、もしも何かがあったとしてもハルヒと二人で分け合えば意外となんとかなるような、そんな気がした。