プリンの在り処
「ただいま」
「お、おかえりー!ハルヒ」
ハルヒが帰宅すると光がプリンを食べていた。ハルヒがいつ食べようかと柄にもなく楽しみにしながら買ってきたプリンを。
何故だかハルヒの家にいる光と、光の目の前の机に置かれた食べかけのプリン。それをハルヒは見逃さなかった。
そんなハルヒの胸中なんて知る由もない光は、やっぱり合鍵って便利だなと笑いながらプリンを口へと運ぶ。
合鍵なんて渡すんじゃなかったのかも……とハルヒが吐いた溜息はすぐにどこかへ消えていく。そしてその間にプリンも光の口の中へと消えていく。
玄関と呼ぶにはおこがましいとも思える場所で慌てて靴を脱いだハルヒは、ようやく光の所へとやって来た。
「光、そのプリンって……」
今、ハルヒの頭の中にあるのはプリンのことで。申し訳ないが光のことは二の次になっていた。
「ハルヒも食べる?はい、お裾分け!口開けてー」
スプーンに乗ったプリンが目の前に差し出されるとハルヒは素直に口を開ける。甘いプリンとなんとなく苦味のあるカラメルソースが美味しい。なんて思っている一瞬でプリンは口の中からなくなった。
「美味しいよな、そのプリン」
「そうだね」
ハルヒの言葉を聞いて、なーと言いながら容器を傾ける光はちょうどプリンを食べ終えたようだった。
そこでハルヒは改めて光に向き直ると先程の質問をもう一度してみることにした。
「光。そのプリンってどうしたの?」
「これ?ハルヒの家の冷蔵庫にあったやつだけど?」
「勝手に食べたの?」
「そうなるね」
珍しく怒っているハルヒの威圧感に負けてしまった光は、尻込みしながらも続けた。
「でもさ、ハルヒ。冷蔵庫!冷蔵庫見てみてよ!」
「冷蔵庫?」
言われるがままにハルヒは台所へ行って冷蔵庫を開ける。
すると、冷蔵庫の中には今ちょうど光が食べ終えたはずのプリンが入っていた。
「びっくりした?ハルヒ。ちょうどハルヒの家に来る前にさ、テレビのCMでプリン見かけたから買ってきたんだ」
上から声が降ってきたからハルヒが見上げると、自慢げな光が立っていた。
「ハルヒ、好きだろ?そのプリン」
「そうだけど……」
「でもびっくりだよなー。3つで98円だもん、そのプリン」
楽しそうに笑った光は、もう一個と三連のプリンを一つ取った。
「まだ食べるの?」
「いいじゃん。いっぱい買ってきたんだから」
「あれは流石に買いすぎじゃない……?」
「そうかな、500円でお釣りが来たけど?お釣り10円だから駄菓子ってやつ買えるよ?いる?ハルヒ」
「……いらないよ」
プリン一個のためにあれ程までに騒いでいたのはなんだったのか。
ごめんね、光、ありがとう。心の中でそう呟いたハルヒも、スプーンを持って光の隣に座った。