くっつき虫
お庭の草が伸びてきていたのが以前から気になっていたから手が空いている隙にと思って草むしりをしていたら、巡察を終えて帰ってきた平助くんが「千鶴、手ぇ痛くないか?」とお庭にひょっこりと顔を出した。
「大丈夫だよ」
「そっか。なぁ、オレも草むしりやっていいか?」
「いいの? ありがとう。助かるよ」
「どーいたしまして!」
にっと笑った平助くんとそんな会話を交わしたのは少し前。しかし、どれだけ集中していたのか。ふと積み上げた草に視線をやると辺りはもう薄暗くなっていた。平助くんは、というと私以上にたくさんの草を積み上げていて。手を止めた私には目もくれずに中々抜けないらしい草と格闘していた。
両手で草をぎゅっと掴むと腰も使って立ち上がりながら引っ張る。そんな平助くんを見ていると手を握りしめていることにも気が付かずに思わず力が入る。すると平助くんがぐっと立ち上がった瞬間に、すっぽりと草が抜けた。その様子に我がことのように喜んでいたら平助くんと目が合った。
「暗くなってきたし今日はもう終わりだな」
「そうだね」
ふーっと息を吐きながら平助くんは手の甲で額を拭った。そんな平助くんを目で追いながら私も立ち上がる。ぱんぱんと手を払って裾も払うと、平助くんの着物の襟に小さな影が出来ていることに気が付いた。
なんだろう? 不思議に思いながら近付く。この薄暗がりではよく見えないから。近付いてじっと目を凝らすとようやく目が慣れてくる。それは、くっつき虫だった。
「さっきからお前何してんの」
突然、上から平助くんの声が降ってくる。近付いたのだから不審に思われていたのだとしても、上から声が降ってきたとしても何も不思議ではないのだけど、驚いた私は思わず一歩後退る。
「あ、あのね、平助くんの襟にくっつき虫がついていて」
「え、そうなの? どこ?」
視線を下げた平助くんは着物を引っ張りながら何度も顔の角度を変えながらくっつき虫を探す。だけど見つからなかったのか諦めて着物から手を離すと、こちらに一歩近付いて言った。
「自分じゃ見えねーから千鶴、取ってもらっていい?」
「うん、いいよ」
すぐにそう答えたはしたものの恐る恐る手を伸ばす。襟ということはすぐ隣には平助くんの肌が覗いているというわけで。それが変に緊張する。ゆっくり、だけどしっかり手を伸ばす。何故だか息を止めながら。先程まで草むしりに費やしていた集中は指先へ。すると平助くんがぷるぷると震えているのが分かった。
「へ、平助くん?」
「早く取ってくれないと擽ったいじゃん」
手で口元を押さえた平助くんは今にも笑い出しそうに声を震えさせながら言った。「そうだよね」と応えてからえいっと決心して手を伸ばすと、ようやくくっつき虫が取れたから再び一歩後退った。
「と、取れたよ。平助くん」
「おう、ありがとな、千鶴」
平助くんは目を細めて笑った。と、同時に目を凝らすようにしてじっと私の顔を覗き込む。
「ど、どうしたの、平助くん?」
「千鶴は土がついてるなと思ってさ」
ほら、ここ。そう呟きながら平助くんの手が頬に触れる。
なるほど。優しく触れてくれているからなのか、確かにこれは擽ったい。目を細めたくなる程に。
願わくば頬の熱が貴方に伝わっていませんように。
そう願ったはずが、屈んだ平助くんと目が合うとふと笑みを見せられたから今度は顔全体に熱が集まった。
「大丈夫だよ」
「そっか。なぁ、オレも草むしりやっていいか?」
「いいの? ありがとう。助かるよ」
「どーいたしまして!」
にっと笑った平助くんとそんな会話を交わしたのは少し前。しかし、どれだけ集中していたのか。ふと積み上げた草に視線をやると辺りはもう薄暗くなっていた。平助くんは、というと私以上にたくさんの草を積み上げていて。手を止めた私には目もくれずに中々抜けないらしい草と格闘していた。
両手で草をぎゅっと掴むと腰も使って立ち上がりながら引っ張る。そんな平助くんを見ていると手を握りしめていることにも気が付かずに思わず力が入る。すると平助くんがぐっと立ち上がった瞬間に、すっぽりと草が抜けた。その様子に我がことのように喜んでいたら平助くんと目が合った。
「暗くなってきたし今日はもう終わりだな」
「そうだね」
ふーっと息を吐きながら平助くんは手の甲で額を拭った。そんな平助くんを目で追いながら私も立ち上がる。ぱんぱんと手を払って裾も払うと、平助くんの着物の襟に小さな影が出来ていることに気が付いた。
なんだろう? 不思議に思いながら近付く。この薄暗がりではよく見えないから。近付いてじっと目を凝らすとようやく目が慣れてくる。それは、くっつき虫だった。
「さっきからお前何してんの」
突然、上から平助くんの声が降ってくる。近付いたのだから不審に思われていたのだとしても、上から声が降ってきたとしても何も不思議ではないのだけど、驚いた私は思わず一歩後退る。
「あ、あのね、平助くんの襟にくっつき虫がついていて」
「え、そうなの? どこ?」
視線を下げた平助くんは着物を引っ張りながら何度も顔の角度を変えながらくっつき虫を探す。だけど見つからなかったのか諦めて着物から手を離すと、こちらに一歩近付いて言った。
「自分じゃ見えねーから千鶴、取ってもらっていい?」
「うん、いいよ」
すぐにそう答えたはしたものの恐る恐る手を伸ばす。襟ということはすぐ隣には平助くんの肌が覗いているというわけで。それが変に緊張する。ゆっくり、だけどしっかり手を伸ばす。何故だか息を止めながら。先程まで草むしりに費やしていた集中は指先へ。すると平助くんがぷるぷると震えているのが分かった。
「へ、平助くん?」
「早く取ってくれないと擽ったいじゃん」
手で口元を押さえた平助くんは今にも笑い出しそうに声を震えさせながら言った。「そうだよね」と応えてからえいっと決心して手を伸ばすと、ようやくくっつき虫が取れたから再び一歩後退った。
「と、取れたよ。平助くん」
「おう、ありがとな、千鶴」
平助くんは目を細めて笑った。と、同時に目を凝らすようにしてじっと私の顔を覗き込む。
「ど、どうしたの、平助くん?」
「千鶴は土がついてるなと思ってさ」
ほら、ここ。そう呟きながら平助くんの手が頬に触れる。
なるほど。優しく触れてくれているからなのか、確かにこれは擽ったい。目を細めたくなる程に。
願わくば頬の熱が貴方に伝わっていませんように。
そう願ったはずが、屈んだ平助くんと目が合うとふと笑みを見せられたから今度は顔全体に熱が集まった。