今年もいい年でした! (双子+ハルヒ)
今年も残すところ今日と明日の二日だけという頃、僕らは家でのんびりと過ごしていた。
いつもなら家族みんなで暖かい所で過ごしていたはずだけど、今年はみんな忙しいらしい。残念だけど仕方のないことだ。僕らは二人だけで過ごすことにはもう慣れている。
◇◇
ずっとやり続けていたゲームにも飽きて、ベッドに寝転ぶ。
ハルヒは今、何をしているのだろう?宿題してる?テレビを観てる?それとも家事とか?ふと、ハルヒが頭の中を埋め尽くす。
最近は頭の中がハルヒでいっぱいだ。ハルヒは今は何をしているのかなとか、ハルヒがこの料理を食べたら美味しいって言うだろうなとか。とにかく、ハルヒのことばかりだ。
そんな時、同じくベッドに寝転びながら本を読んでいた馨が口を開いた。
「そういえば、光。ハルヒも年越し一人なんだって。知ってた?」
「へ、へぇー、ハルヒも?パパさんは?」
ちょうどハルヒのことを考えていた時にいきなりハルヒの名前が出てきたもんだからびっくりした。流石は馨だな…。
「どうしても抜けられない仕事があるんだって。鏡夜先輩が言ってた。大変だよね、パパさんも」
「だよなぁ、うちもそうだし。…あ!そうだ!馨!明日、ハルヒをうちに呼ばない?」
「…いいね!ハルヒも一人じゃ寂しいだろうし!」
「じゃあ早速誘うか!」
「だね!早くハルヒに電話しようよ、光」
いつの間にか僕も馨もベッドから起き上がって前のめりになって話していた。馨が楽しそうに笑っている。僕も楽しくて、楽しみでワクワクしている。
意見が一つにまとまった時の僕らの行動は早い。
僕が携帯でハルヒの携帯に電話をかけると、馨は携帯にぴったりと耳をくっつける。
プルルル…という呼び出し音が何度か鳴った後、『もしもし、藤岡です』とハルヒの声がした。何日か振りに聞くハルヒの声に思わず胸が高鳴って、なんだかソワソワする。だけどそんなことは気にしないようにして、すかさずハルヒにツッコミを入れる。
「ハルヒ、これ携帯」
「電話の相手がハルヒだって分かってかけてるんだよ」
『あ、光、馨。そういえば携帯だったね。それで、どうしたの?』
「あのさ、ハルヒ。ハルヒって明日、家に一人なんだろ?」
『そうだよ、父は朝から仕事だから。でもよく知ってるね』
「鏡夜先輩から聞いたんだよ」
『…やっぱり鏡夜先輩なんだ』
「それでさ、僕らも明日は二人だけなんだけどハルヒも一緒にうちで過ごさない?」
「うちもお母さんたちが仕事でいないんだ。三人の方が楽しいでしょ?」
『それもそうだね。遊びに行かせてもらおうかな』
「じゃあ決まりだな!」
「それじゃあ、明日の朝にハルヒの家に迎えに行くからその時にお菓子とか買おうか」
「お!それいいじゃん!馨!」
「じゃあ、ハルヒ。そういうことでまた明日ね」
『うん、また明日。楽しみにしてるね』
「また明日!ハルヒ!」
挨拶をすませると電話が切れた。
ツーツーという音がしている携帯を放り投げると、馨と顔を見合せ、やったな、やったね、と笑い合う。
今年最後の一日をハルヒと一緒に過ごせる。それだけで、今年はもう最高の年だって言えるし、来年も最高の年になるだろう。嬉しくて、楽しみでみんなに自慢して回りたいくらいだ。
電話越しにハルヒの声を聞いた時に感じたあの感覚はきっとハルヒが好きだからこそ感じたのだろう。早くハルヒに会いたい。会って話したい。早く明日になればいいのに。そんなことを考えながら飽きたはずのゲームをまた始めてみたけど、やっぱり頭の中はハルヒのことでいっぱいだった。
◇◇
大晦日。それぞれ自分たちだけで過ごすはずだった光と僕、そしてハルヒは今年最後の一日を三人で一緒に過ごしている。
先程まで話し込んでいた僕ら三人だったけど、今は静かに同じ方向へと視線を向けている。何をしているかというと、映画鑑賞だ。何故だかこの三人で恋愛映画を観ている。
映画はなんともありきたりで、安っぽい。最後にはきっと感動的な感じで主人公たちは結ばれるのだろう。そんな分かりきった未来だなんて、つまらない。つまらないから、ハルヒが持ってきてくれたミカンを剥きながら、ぼーっと画面を見つめる。
主人公たちがスーパーに買い物に行っている。付き合ってもないのに隣同士並んで、カートを押しながら買う物を選んでいると新婚さんみたいだ、なんてそんなわけないのに。バカらしいとは思うけど、こんなことならさっきお菓子を買いに行った時にハルヒの隣に並んで、カゴを持って、一緒にお菓子を選んだらよかったかもしれないと考えている自分もいる。そんなこと考えてしまっている自分もバカらしいけど。
でもそれ以降はやっぱり映画はつまらなくて、いつの間にかミカンへと意識が逸れていく。
ミカンの皮を剥いていると、恋とは思い通りにいかないことばかりで、嬉しいことや楽しいことだけではない。そんなことは分かっているけど、なんで光と同じ人を好きになってしまったのだろうと、やっぱり思ってしまう。
そんなことを考えているからなのか、ふと、光やハルヒが気になって二人を見ると、二人も僕と同じようにミカンに夢中になっている。
「映画、つまらないね」
「つまらない!すっごくありきたりじゃない?」
「自分、途中からミカンの方が気になってたよ。どれが美味しいかって」
「ハルヒが持ってきたミカン、美味いよなー」
「近所の人から貰ったんだ」
「ホント美味しいよね。僕もう五つも食べちゃった」
「馨、食べ過ぎじゃない?」
「馨も光もいくつ食べても大丈夫だよ。ミカン、たくさん持ってきたから」
恋愛映画なんかよりも、美味しいミカンに夢中になってしまう今の僕ら。せっかく今年最後の一日を、ハルヒと光と三人で過ごせるのだから楽しまなくちゃもったいない。
誰も観なくなっていた映画を消すと、ミカンやお菓子を食べながらまたいつもみたいに三人で他愛もない話をする、僕の大好きな時間が始まった。 光とハルヒとたくさん話をしながら甘酸っぱくて美味しいミカンを食べる、こんな年越しも悪くない。
僕の大切な光とハルヒの笑顔が見える。いつか誰かがこの関係を壊したいと思うまでは、こうして三人で楽しく過ごせるのだろうか。
◇◇
光と馨に誘われて、一緒に過ごすことになった今日。大晦日らしいことをしたわけではないけど、一人で年を越すよりもきっと何倍も楽しい一日になっているだろう。
今年もいい年だったなぁ。来年もどうかいい年でありますように。
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