たまにはいいだろ
残暑厳しい九月と言えど、夜になるとめっきり冷える。昔から言われていた暑さ寒さも彼岸までという言葉はやはり的を射ているのだろう。
そんなことを考えながら鏡夜は、ホットコーヒーとブランケットを用意してソファに座るとパソコンに向かった。
家に持って帰ってきた仕事、というよりは他人の不手際の手伝い。
手伝う気なんてさらさらなかったがあの手際の悪さであいつは明日も一日潰すのかと思うとどうにも無駄……いや、勿体ない気がした。だから代わりに俺がやりますと手を上げた。
時折コーヒーを飲みながら作業を進める。この分ならもう少しで終わるなと思い、時計を見る。時刻は十時半をまわろうとしていた。
そういえば、一時間程前に風呂に入ったはずのハルヒがまだ戻って来ない。もう少しして戻って来ないようなら見に行くかと鏡夜がちょうど思った時、「鏡夜先輩、お先です」とハルヒが戻ってきた。
「ハルヒ」
鏡夜は手招きをすると、ハルヒを自分の隣へと招いた。ハルヒはいつも髪を乾かしてこないから仕方がないので鏡夜が拭いてやるのだ。
しかし、鏡夜がハルヒの髪に触れようとしたら、ハルヒが振り向いた。
「今日は大丈夫ですよ。自分でちゃんと乾かしたので」
ね、と髪を掴んでは離してを繰り返してハルヒは髪が乾いていることを確認する。いつもとは違うハルヒに、鏡夜は驚いてしまったがすぐにいつもの調子を取り戻してふっと笑った。
「ハルヒが自分で髪を乾かすなんて珍しいな」
「鏡夜先輩が言ったんじゃないですか。今日は忙しいから乾かしてやれないぞ、って」
「だから中々戻って来なかったのか?」
「はい。意外と大変なんですね、髪を乾かすのって」
自分のことなのにまるで他人事のようにハルヒは言った。
鏡夜は俺に乾かしてもらいたいがためにもしかしてハルヒは毎日髪を乾かさないのかとも思ったが、代わりに笑みだけ零して、今のところは黙っておくことにした。
するとそんな鏡夜につられたのかハルヒも笑うと、心做しか俯いた。
「でも髪乾かしてる間に冷えたのか少し寒くって。……自分も何か温かい飲み物入れて来ますね」
「その必要はないよ、ハルヒ」
立ち上がろうとしたハルヒの腕を掴んだ鏡夜は、ハルヒをソファの上に留まらせるとなるべく近づいて、それから自分の傍らに置いてあったブランケットをハルヒと、そして自分の足へと掛けた。
「お裾分けだ」
飲み物は後で俺が入れてくるから、と鏡夜が付け加えると、二人は暫しの間とりとめのない会話を楽しんだ。