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そんなこととは露知らず


紆余曲折を経て、鏡夜先輩と付き合うことになったから光と馨に報告しに行った。
すると二人は、おめでとうって笑って、いい事教えてあげるってニヤリとしたから、多分しょうもない事なのだろうなと嫌な予感がした。
だけどあの時、“絶対に鏡夜先輩が喜ぶから”という光と馨の言葉に飛びついてしまった自分がいたのも事実だ。

それでも今となっては、自分の直感を信じて二人に言われたことなんて実行しなければよかったのかもしれないと、ものすごく思う。


「……鏡夜先輩、」

まずは鏡夜先輩の服の袖を引っ張って、鏡夜先輩を見上げる。

二人に教えられた通りにやってみるも本当にこんな事をして意味があるのか不思議でならない。というか自分は何を馬鹿な事をしているのだろうとさえ思う。

「どうした?ハルヒ」

ふと笑った鏡夜先輩に顔を覗き込まれて自分は反射的に顔を逸らした。だってそんなのどうしていいのか分からないし、とりあえずなんか恥ずかしかったから。

だけど鏡夜先輩が喜ぶのなら、自分がしたことによって喜んでいる鏡夜先輩を見てみたいし自分が鏡夜先輩を喜ばせてみたい。それに今更あとには引けない。一度大きく深呼吸をすると、二人に教えられた次の手順を思い出す。

鏡夜先輩が反応したら、鏡夜先輩を見たまま呟く。ゆっくりと。

「……鏡夜先輩、ねっちゅーしょー…?」

するとさっきまで笑っていた鏡夜先輩の動きが急に止まった。
それは自分の言動に驚いているのか、はたまた自分が言った言葉がよく分かっていないのか。鏡夜先輩に限って後者ではないだろうとは思うけどどちらにしろ喜んでいないのは確かだ。ということはつまり、自分は二人に騙されたということで。騙されたということも馬鹿なことをしてしまったということも急に恥ずかしくなってくる。

「あの、鏡夜先輩!今のは忘れてください!光と馨に騙されたみたいで…」

それでは、と鏡夜先輩の前から逃げようとしたって鏡夜先輩が逃がしてくれるわけなんかないことはなんとなく分かっていた。
それでも、どうにかその場から逃げ出したくて鏡夜先輩に背中を向けた。だけど、…なるほど、あいつらかと呟いた鏡夜先輩に腕を掴まれてしまい、やっぱりその場からは逃げ出せない。

「ハルヒ、もう一度言ってくれないか」
「え、さっきのを、ですか?」
「そうだ。もう一度聞きたくなったんでな」

やっぱりふと笑う鏡夜先輩に勝てるわけもなく、自分はもう一度呟く。

「ねっちゅーしょー」
「今日のハルヒは随分と大胆だな」

そう言って再び笑った鏡夜先輩が近づいてきたからあまりの顔の近さに驚いて目を瞑ると唇が何かに触れた。多分、鏡夜先輩の唇と。つまりそれはキスで、そのことをやっと理解した自分はというと、驚いてしまい声が出ないし顔も耳も身体もどこもかも熱い。

「はは、ハルヒは真っ赤だな。熱中症には気を付けるんだぞ」

そんな自分とは違い、余裕の鏡夜先輩。
いつも通りのそんな先輩を見上げたら、ハルヒ好きだぞと笑った先輩に再びキスされた。


◇◇◇


「あの、鏡夜先輩」

身体中の熱さがやっと落ち着いてきて自分は口を開いた。

「なんだ?」
「…なんでさっき、キス……したんです?」
「ハルヒこそなんで双子に言われたからといってあんなことをしたんだ?」
「…鏡夜先輩が喜ぶからって言われたんです。二人に」

ごにょごにょと答えれば、そうかと鏡夜先輩は優しく笑った。

「そんなこととは露知らず、ハルヒがキスしたいと言ってるのだと思って驚いただろ」
「…えーと、それはつまり…?」
「熱中症をゆっくり言って、ね、ちゅーしよう、だろう。この間、環と光と馨の馬鹿3人が何やら盛り上がっていた。だけどハルヒは知らないだろうと思ってな」

ふと笑った鏡夜先輩は、ただただ楽しそうで。
自分こそ確かにそんなこととは露知らずに言ったけど、きっと鏡夜先輩にはそんなことなんてお見通しだったのだろう。

これは確かに鏡夜先輩が喜んでいるのだろうなとは思うものの、なんだかみんなに遊ばれたような気がしてならなかった。
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