「ただいま～！」
「ただいま戻りました」

「お帰りなさい、悠月。今日は遅かったのね？
　あら、バジル君も一緒？」

「はい、散歩してたら、偶然。」

後から聞いた話だったが、バジルは悠月をおどろかせようと思って内緒で家を訪ねたが、
悠月がいなかったので散歩に出たのだと、帰り道で聞かされていた。

バジルは今日、悠月の家に泊まり、明日にはまたどこかへ行ってしまうのだという。

「もっと長く居てもいいのに…。」

帰り道でつい、悠月が呟く。

「ごめんなさい、悠月殿。
　拙者はやらなければならない大切なことを任されたんです。
　だから明日には、ここを離なければなりません。」

バジルのその声には、寂しさとともにどことなく決意がにじんでいた。

―また、危ないことをしているのかな。

勘づいた悠月だったが、

自分のさみしい気持ちは心にしまって、代わりにバジルと再会できた今の時間を精一杯楽しむことに決めた。


「二人とも、ご飯ができたら呼ぶから、部屋にあがってて」

「はーい」「わかりました」

二人は返事をして、階段を上っていく。
２階には、悠月の部屋と、ゲストルーム―つまりバジルの泊まる部屋があり、夕飯まで二人は悠月の部屋で過ごすことにした。

階段を上っていく二人を見送り、母はキッチンに向かうと、鼻唄をうたいながら夕食の支度をはじめた。