『桜の花がすべて散るまでに、ツナ君のことをあきらめなきゃ、って思ってた。』

『なのに…不思議だよね。
　そう思えば思うほど、ツナ君のことを好きになってしまった。』


憂うように伏せられた悠月ちゃんの横顔に、胸が痛んだ。
嬉しい気持ちと、悲しい気持ちがごちゃごちゃになって、心の中を渦巻いていた。

『桜の花たちにね、できるだけゆっくり散っていってほしいって、そう願い続けた。
　だけどやっぱり、今日で終わっちゃいそう。これだけ雨が降ったら…ね。』


はっと気がついて、慌てて屋上から校庭を見渡した。
終りかけていた桜の花が、雨のせいでたくさん散ってしまっていた。
代わりに地面には、たくさんのさくら色が見えた。


『消える前に、ツナ君に、ちゃんと伝えたかったの』

俺が振り返ると、
悠月ちゃんと、すっと目が合った。

『ツナ君。私ね、』

悠月ちゃんは俺に

『ずっと前から、あなたのことが、好きでした。』

そう言って、微笑んだ。


その言葉に、笑顔に、吸い込まれるように、
悠月ちゃんの目を、俺はじっと見つめた。

悠月ちゃんの目は、真剣で、だけど、どこか穏やかな目をしていて。
やさしくて、かがやいていて。


きれいな目だな、と思った。

それはきっと、この世界にあるどんな宝物よりもきれいなもののように思えた。