―儚くて　優しくて　幻色の霧雨よ―


霧雨。音もなく、静かに霧雨が降っていた。

少し散りはじめた桜の花も、新たに芽生え始めた幼い葉も、
今はその霧雨で、しっとりとぬれていた。

その静かな世界の中、悠月は一人、傘を差し
学校の別棟へと向かう道を歩いていた。

別棟へと通じる道は、桜がたくさん咲いていて、
いつもなら桜吹雪が舞っている。

だが今日は霧雨のせいか、道に花びらがたくさん落ちていて
まるで桜色のじゅうたんを敷き詰めたようになっていた。

その道を、悠月は歩いていく。

まだ夕方で、日が沈むには早いけれど、
なんとなく視界がぼんやりと暗く見える。

きっと、この雨のせいだ。
そうでなければ、そう…今日は空が曇っているからだ。

そうだ、そうに違いない。
悠月はそう自分に言い聞かせた。

なんだか、ふいに泣きたくなってしまったからだ。

最近はそういうことが時々あって
その時は決まって、あの人のことを思い出してしまう。

（骸…今どこで、何をしているのかな…？）

胸がきゅっと締め付けられるような感じがして
少し苦しくなったその時。



「どうしたんですか？　悠月。」

ふいに後ろから声がした。
悠月はすぐに振り返った。

この声は、悠月が今一番聞きたい声だった。
悠月は振り返ると、自分の胸が躍るのを感じた。

『…骸！！　来てくれたんだね……。
　やっと…やっと、会えた……！！』

声がした薄もやの中から、骸がすっと現れた。

悠月はうれしくて、
傘も捨てて骸を抱きしめたい気持ちになったけれど
それを何度も失敗していることを思い出して、少し悲しくなった。

『また、幻覚…なんだよね？　骸。』