消えることはない記憶
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屋上への扉をあけると、やっぱり悠月ちゃんはそこにいた。
傘もささずに、雨の降る空をぼうっと見上げて、
悠月ちゃんは佇んでいた。
長い黒髪が、雨に濡れていっそう黒く光っていた。
「悠月ちゃん!」
俺の声に、悠月ちゃんがゆっくりと振り向いた。
その顔を見た時、俺は思わずはっとした。
悠月ちゃんはいつもみたいに笑おうとして。
でも、今にも泣き出してしまいそうな顔で。
けど、悠月ちゃんが本当に泣いてるかどうかは分からなかった。
降り続く雨が、悠月ちゃんの頬を濡らしていた。
『…雨、降っちゃったね、ツナ君。』
悠月ちゃんが先に口を開いた。
雨粒が頬を伝って流れる。
『これじゃきっと、本当に明日には会えなくなっちゃうね。』
「えっ…? 本当に、って…どういうこと?」
明日、悠月ちゃんは引っ越ししちゃうから会えないってことじゃなかったの?
俺が尋ねると、悠月ちゃんはこう言った。
『ツナ君は信じてくれないかもしれないけど…。
桜の花が終わっちゃうから、会えなくなるの。』
桜の花が終わるから、会えなくなる…?
その意味を理解できずにいると、悠月ちゃんはまた言った。
『今日で最後だから、ツナ君にだけは、教えてあげる。
私はね…精霊なの。桜の樹の、精霊。』
「悠月ちゃんが、桜の樹の、精霊……?!」
思わぬ告白だった。
悠月ちゃんは、人間じゃないってこと?
『そう。私は、この学校に植えられた一つの、桜の樹の精霊。
私は、花ひらくときだけみんなに見えるようになるの。
みんなと一緒にいられるのは、その時だけ。
樹に咲いた花が全部散ってしまったら、終わり。
私はまた、みんなに忘れられてしまうの。』
悠月ちゃんの声が途切れ、沈黙が流れた。
雨の音に、この沈黙に、耳が痛くなりそうだった。
『桜の樹の精霊には、一つだけしてはいけないことがあるの。
それはね、自分の存在を、誰かに残してしまうこと。
私が桜の樹の精霊だって伝えて、その人に私を覚えていてもらうこと。
もしそれをしてしまったら、私はその年の終わりとともに消えて、
二度と精霊には、戻れなくなる。』
「なんで…!なんで俺にそんなことを…っ」
『そんなの、決まってるよ』
『ツナ君のことが、好きだから。
ツナ君にだけは覚えていてほしかったの…私のことを。』
悠月ちゃんが微笑んだ。
いつもの笑顔と少し違う、でも、柔らかい微笑みだった。
傘もささずに、雨の降る空をぼうっと見上げて、
悠月ちゃんは佇んでいた。
長い黒髪が、雨に濡れていっそう黒く光っていた。
「悠月ちゃん!」
俺の声に、悠月ちゃんがゆっくりと振り向いた。
その顔を見た時、俺は思わずはっとした。
悠月ちゃんはいつもみたいに笑おうとして。
でも、今にも泣き出してしまいそうな顔で。
けど、悠月ちゃんが本当に泣いてるかどうかは分からなかった。
降り続く雨が、悠月ちゃんの頬を濡らしていた。
『…雨、降っちゃったね、ツナ君。』
悠月ちゃんが先に口を開いた。
雨粒が頬を伝って流れる。
『これじゃきっと、本当に明日には会えなくなっちゃうね。』
「えっ…? 本当に、って…どういうこと?」
明日、悠月ちゃんは引っ越ししちゃうから会えないってことじゃなかったの?
俺が尋ねると、悠月ちゃんはこう言った。
『ツナ君は信じてくれないかもしれないけど…。
桜の花が終わっちゃうから、会えなくなるの。』
桜の花が終わるから、会えなくなる…?
その意味を理解できずにいると、悠月ちゃんはまた言った。
『今日で最後だから、ツナ君にだけは、教えてあげる。
私はね…精霊なの。桜の樹の、精霊。』
「悠月ちゃんが、桜の樹の、精霊……?!」
思わぬ告白だった。
悠月ちゃんは、人間じゃないってこと?
『そう。私は、この学校に植えられた一つの、桜の樹の精霊。
私は、花ひらくときだけみんなに見えるようになるの。
みんなと一緒にいられるのは、その時だけ。
樹に咲いた花が全部散ってしまったら、終わり。
私はまた、みんなに忘れられてしまうの。』
悠月ちゃんの声が途切れ、沈黙が流れた。
雨の音に、この沈黙に、耳が痛くなりそうだった。
『桜の樹の精霊には、一つだけしてはいけないことがあるの。
それはね、自分の存在を、誰かに残してしまうこと。
私が桜の樹の精霊だって伝えて、その人に私を覚えていてもらうこと。
もしそれをしてしまったら、私はその年の終わりとともに消えて、
二度と精霊には、戻れなくなる。』
「なんで…!なんで俺にそんなことを…っ」
『そんなの、決まってるよ』
『ツナ君のことが、好きだから。
ツナ君にだけは覚えていてほしかったの…私のことを。』
悠月ちゃんが微笑んだ。
いつもの笑顔と少し違う、でも、柔らかい微笑みだった。