しばらく待っていると、コンコン、と再度ドアがノックされる音がした。

失礼します、とまたあの少女の声が聞こえて、
少女とともに、もう一人別の人が入ってきた。

―この人が…ボス……？

少女と一緒に表れたのは、男性だった。
金色の髪に、鳶色の瞳。背丈は僕よりもずっと高く見えた。

けれど、威圧的な印象は受けなかった。

彼の瞳がおだやかだったせいかもしれない。
どこか懐かしいような気がした。

彼は少しの間、僕の目をじっと見つめていた。
僕も、じっと彼の目を見返していた。

「目が覚めたんだな。身体の調子はどうだ？」

彼の目を見ていた時間は、僕にとって
一瞬のようにも、もっと長い時間のようにも感じた。

「身体が、痛いな…」

「そうか…まあ、そうだよな。」

「ここはどこ？
　君が、さっき彼女が言っていた“ボス”という人なのか？」

「そうだな、俺はここでボスと呼ばれてる。
　ここはまあ…俺の家、みたいなもんだな。俺はディーノ」

彼―ディーノはそこで一瞬、何かをためらったように見えたが

「キャバッローネファミリーの、いわゆるマフィアのボスだ。」

そう言った。

僕は頷き、ディーノ、と名前をつぶやいた。
ディーノ…と、忘れないように、もう一度。

「そう、俺はディーノ。
　俺がお前をここまで運んで、医者に診てもらえるように頼んだ。
　お前が目覚めるまで、身の回りの世話は彼女が看てくれた。」

メイド服の少女がすっと前に進み出て、

「先ほどは失礼しました～！私はソフィアと申します！」
と挨拶をした。

僕は今度は、ソフィア、とつぶやく。
少女―ソフィアが、はい！と返事をして微笑む。

「そうだったのか…。ありがとう。ディーノ、ソフィア。」

「あぁ、そのくらい構わねえよ。しかし驚いたんだぜ？
　土砂降りの雨の中で倒れているのを車の中から見た時はさ。
　本当に死にそうな状態だったし、医者に見せたらいつ目覚めるかわからないなんて言われるし。」

「ディーノ、僕は死にかけていたのか？」
「もしかして…覚えていないのか？」
「…死にかけていたのは、この現状を見て把握した。
　ただ、なぜそうなったかは、覚えていない…。」

僕はまるで他人事のような気分で答えた。
自分が誰なのか、名前も思い出せないし、どこにいたのかも、何をしていたのかも思い出せない、ということを、ディーノとソフィアに伝えた。

「わかった。今日はもう少し休んでいい。
　また目が覚めたら、少しずつ話をしていこう。」

ディーノは僕にそう告げ、僕はこくりとうなずいた。