しばらく考え込んでいたディーノだったが、
やがて何かを決意したように、僕に向かって、こう言った。

「……フィリ。」

「……フィリ……？」

「お前…この名前に、聞き覚えはないか…？」

真剣なまなざしで、ディーノが僕に問うた。
風がざあぁ…と木々の葉を揺らす音が響くのが聞こえた。

「…………。」

ディーノの真剣なまなざしを受け止めながら、
僕はその”名前”に、胸の奥がざわざわと音を立てるのを感じていた。

けれど、返答することはかなわなかった。

胸の奥が何かに反応していることだけは分かったが、
ただただ、このざわつきを感じていることに驚くばかりで
それ以上の返答は、持ち合わせていなかった。

この、胸のざわつきは一体……？


「…いや、なんでもない。無いなら、いいんだ。」

しばらくだったか一瞬だったか、
真剣な目をしていたディーノが、僕から目をそらして言った。
その声は、何となく居心地の悪さを含んでいた。


僕は未だにざわつきが収まらない胸に、手を当てて

「それが…僕の名前…なのか？」

ディーノに問うた。

「…分からない。でも、お前は俺の知ってるやつに、よく似ていたから。」

「その人は今、どうしているんだ？」

「…死んだんだ。」

「……。」

「もう4,5年前になるかな、屋敷の火事で…。」

「そうだったのか。」

「…あぁ。」

なぜその人の名前に、こんなにも反応するんだろう。

聞き覚えがあるかどうかなんて、分からない。
けれど、自分に全く関係のないものだとは、思えなかった。

「…分からない。でも、その人の名前を聞くと、胸の辺りがざわざわする。」

ディーノがなぜ今、その人の名前を言ったのか分からないけど…

「フィリ、…フィリ…。うん、」

胸のざわめきを感じながら、僕には一つの閃きがあった。

「ディーノ、その名前を…僕にくれないだろうか？」

その提案を、僕は口にした。