それから、僕はディーノと、中庭のベンチに座って話をした。

僕がここにくるまでの過去のことを改めて聞かれたが、
やはり思い出そうとしても、思い出せなかった。

「僕は、どうして何も覚えていないのだろう。
　君は僕のことは、何か知っていないのか？」

「いや、俺は何も知らないんだ。
　雨の日にお前が道で倒れていたことしか…。」

「…そうか。」

「…ただ、命は一度失えば絶対に戻らないが、記憶は戻るかもしれない。
　生きていれば、きっとまた思い出せるようになるさ。」

「そうだな…ありがとう。」

僕は目を落とし、足に巻かれた包帯に目をやった。

「僕は……なぜ殺されそうになったんだろう。
　僕は、何を知っていたんだろう…。」

言葉が口をついて出た。

僕の隣でディーノも、考えこむようにうつむいた。