僕がまぶたを開くと、そこは孤独な場所だった。


たぶんそれはただの気のせいなのだろうけれど、僕はそこを孤独だと思った。
白い部屋に一人、僕は取り残されていた、と思った。

孤独は、良くも悪くもなかった。
他の人はどうもかなんて知らないけれど、僕は孤独を、ただの孤独として認識していた。

だから今日の僕は少し変だと、僕は思った。

ベッドの横に置いてあった白い服を着て、しばらくぼーっとしていたけれど、
ふと部屋の扉の向こうが気になった。

―そういえば、まだここに来てから一度も部屋を出ていないな。

僕は扉に近づき、取っ手を握る。
鍵は掛かっておらず、扉は緩やかに開いた。

風が吹き抜けて、目の前に広がったのは緑色に光る風景。

中庭だった。

廊下を挟んだ向こう側に、緑が広がっていた。
風に混じった草のにおいがふっと鼻先をかすめる。

僕はそっと一歩踏み出した。
石造りの廊下のひんやりとした冷たさが、足の裏に伝わってきて、
心臓をしんと震わせた。

一方、また一歩と、明かりに吸い寄せられる虫のように、
僕は中庭の方へと歩いていった。

途中、自分が裸足のまま歩いていることに気がついたけど、
そんなこと今はどうでもよかった。

廊下を離れ、足の裏が草に触れる。

さっきのひんやりとした石の感触と違って、
今度は包み込むようなしっとりとした冷たさが伝う。
さわさわと、風になびく草が、不規則に足に当たる。

一歩一歩、歩いていくたびに、
自分が生きている時の感覚が戻ってくるのを感じた。

足の裏から伝わる、冷たさが。
風が草を揺らし、立ち上る草と土のにおいが。
太陽の光の、まばゆさが。
自分の髪が、風になびくのが。
木の葉のさざめく音が……。

忘れていたものが、少しずつ僕の中に戻ってくるみたいだった。