短編小説
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限を意識しはじめたのはいつからだろう。
食事をしている時、誰かと談笑している時、一人でのんびり空を仰いでいる時――様々なシーンで頻繁に限と目が合った。目は口ほどにとはよく言ったもので、時折交じる視線が互いの想いを雄弁に語る。他人を寄せ付けない限の鋭く尖った瞳が、その一瞬だけ切なげに揺れることを私だけが知っていた。
それがいつから始まったのか、正確には思い出せない。でも、私にはそれが運命で定められていることのように思えて、惹かれ合うことに一切の戸惑いはなかった。
だから今、私の部屋で限と二人きりであるこの状況に相応のパニックを起こして然るべきなのだろうけれど、頭の片隅では「ああやっぱり」と受け入れてしまっている自分がいた。
任務を片づけて自室に戻り、血と汗で汚れた戦闘袴を脱いでいると背後から物音が聞こえた。
振り返ると、そこには本来決しているはずのない人物の姿。
その人も任務を終えて帰ったばかりなのか、装束着のままだった。
「おかえりなさい、限」
いつからいたの。どうやって入ったの。なにしにきたの。私はそんな愚問を口にしない。
愛しい人が今夜も無事だった。
それが分かっただけで十分だ。
なつめ。限は聞こえるか聞こえないかの声でそう呟くと、ゆっくりと私に歩み寄った。
私は自身が下着姿であることを思い出し、慌てて近くのバスタオルを引っ掴む。限がこちらに近づくのに比例して、この空間唯一の灯りである電球がその姿を鮮明に照らした。よく見ると装束が数か所破けている。傷口が見えないから自己治癒力で完治した後だろう。
胸の前で身体を隠すようにバスタオルを抱えて硬直していると、限が私に手を伸ばしてきた。
「っ……!」
限の手が私の頬に添えられた――瞬間、私の心は「やっと触れてくれた」という達成感にも似た喜びで満たされていた。
限の眼差しはいつも私に向けられるそれよりも幾分か熱っぽく、そして恐れを孕んでいるようにも見えた。そんな危うい瞳に吸い込まれるように、私はただ黙って限を見つめる。
「なつめ」
今度ははっきりと紡がれた自分の名。聞きなれたはずのそれは、鼓膜を震わせて脳髄に伝わり全身に甘い痺れを走らせた。
そっと、自分の頬に添えられた限の手を愛おしむように握る。限は大きく目を見開くと、もう片方の手も私の頬に添えた。私の顔は限の両手に包まれるようなかたちになる。
少しずつ、限の瞳から恐れや躊躇の色が消えていくのが分かった。
そんなに遅い動作ではなかったかもしれない。だけれど、私にはこの刹那がスローモーションに感じられた。
限の目線が私の唇に移る。次に起こされるであろうアクションに、期待と緊張が混ざり合って心の臓が激しく鳴った。
「げ、ん……!」
顔が息のかかる近さになった時、私は限の名を呼んだ。
嫌か? 限は私を気遣うように見る。
私は小さく首を振った。
勿論、嫌などという気持ちは微塵もない。私の中の僅かな理性が働いて警鐘を鳴らしただけだ。
ここで踏み切ってしまえば、きっと私も限も止まれない。互いを求め、溺れてもなお溺れ続けるだろう。
そして同様に、ここで立ち止まってしまえば視線を交わし合うことは二度とない。私は最悪の形で限の気持ちを、勇気を踏みにじることになるだろう。
どちらを選ぶにせよ決して後戻りはできない。
それを自身に確認する必要があっただけだ。私は、腹をくくって決断する。
「私から、したい」
限は一瞬ポカンと呆けた後、耳まで赤くなるほど顔を熱くさせた。
それを見て、改めて自分が大胆な行動に出ようとしていることを自覚する。
私は生唾を飲み込んで背伸びをした。
唇に触れた瞬間、私を求める限の熱がそのまま伝わってくるようで頭がのぼせそうになった。自分からしたいなどと大見得切ったものの、キスの所作など知らない私は、どう動いていいかさえ分からず触れたままの状態でいた。やがて限の方から顔を離す。
限は先ほどの比にならないほど蒸気した顔で一言「焦らすなよ」とこぼすと、自ら唇を押し付けてきた。私の顔は限の両手にしっかりホールドされて身動きが取れない。それをいいことに、限は何度か小鳥のように唇を啄ばんだかと思えば、自身の舌を私の口内に捻じ込んできた。
パサリ。
私は身体に侵入される奇妙な感覚に驚いて、固く握っていたバスタオルを落としてしまった。
必死に限の舌を自分の舌で押し戻そうとするも、唾液でぬるついてより激しく絡み合い逆効果になってしまう。私の抵抗などお構いなしに、限は角度を変えて何度も口内を蹂躙した。私は息をすることもままならず、快感と酸欠で脳はまともに働かない。
たまらず、限の胸のあたりをポンポンとタップして、降伏の合図を出す。
限は名残惜しそうに私の口内から舌を撤退させた。
私は肩で息をして酸素を取り込む。涙目で限をじろりと見ると、限は一歩引いて口をパクパクさせていた。
不思議に思って自身を見ると、限りなく裸に近い下着姿を晒しており、そこにあるはずのバスタオルが床に落ちていた。
それを拾ってもう一度隠せば問題ない。
だけれど私の脳は酸欠状態から回復しておらず、そんな簡単なことにすら考えが及ばなかった。
「キャァアア」
血迷った私は、下着姿が見られない距離まで詰めようと限に強烈なタックルをかましていた。限はそれをまともに受けて私を抱きかかえながら激しく床に倒れこむ。
馬乗りになったまま恐る恐る窺い見ると、限は口角を上げて不敵な笑みを浮かべていた。
「え……あ、ちが……」
自分がやらかした事の重大さに気付いた時には、限の手が私の腰に回されていた。
fin.
150920
『運命論者の決断』
食事をしている時、誰かと談笑している時、一人でのんびり空を仰いでいる時――様々なシーンで頻繁に限と目が合った。目は口ほどにとはよく言ったもので、時折交じる視線が互いの想いを雄弁に語る。他人を寄せ付けない限の鋭く尖った瞳が、その一瞬だけ切なげに揺れることを私だけが知っていた。
それがいつから始まったのか、正確には思い出せない。でも、私にはそれが運命で定められていることのように思えて、惹かれ合うことに一切の戸惑いはなかった。
だから今、私の部屋で限と二人きりであるこの状況に相応のパニックを起こして然るべきなのだろうけれど、頭の片隅では「ああやっぱり」と受け入れてしまっている自分がいた。
任務を片づけて自室に戻り、血と汗で汚れた戦闘袴を脱いでいると背後から物音が聞こえた。
振り返ると、そこには本来決しているはずのない人物の姿。
その人も任務を終えて帰ったばかりなのか、装束着のままだった。
「おかえりなさい、限」
いつからいたの。どうやって入ったの。なにしにきたの。私はそんな愚問を口にしない。
愛しい人が今夜も無事だった。
それが分かっただけで十分だ。
なつめ。限は聞こえるか聞こえないかの声でそう呟くと、ゆっくりと私に歩み寄った。
私は自身が下着姿であることを思い出し、慌てて近くのバスタオルを引っ掴む。限がこちらに近づくのに比例して、この空間唯一の灯りである電球がその姿を鮮明に照らした。よく見ると装束が数か所破けている。傷口が見えないから自己治癒力で完治した後だろう。
胸の前で身体を隠すようにバスタオルを抱えて硬直していると、限が私に手を伸ばしてきた。
「っ……!」
限の手が私の頬に添えられた――瞬間、私の心は「やっと触れてくれた」という達成感にも似た喜びで満たされていた。
限の眼差しはいつも私に向けられるそれよりも幾分か熱っぽく、そして恐れを孕んでいるようにも見えた。そんな危うい瞳に吸い込まれるように、私はただ黙って限を見つめる。
「なつめ」
今度ははっきりと紡がれた自分の名。聞きなれたはずのそれは、鼓膜を震わせて脳髄に伝わり全身に甘い痺れを走らせた。
そっと、自分の頬に添えられた限の手を愛おしむように握る。限は大きく目を見開くと、もう片方の手も私の頬に添えた。私の顔は限の両手に包まれるようなかたちになる。
少しずつ、限の瞳から恐れや躊躇の色が消えていくのが分かった。
そんなに遅い動作ではなかったかもしれない。だけれど、私にはこの刹那がスローモーションに感じられた。
限の目線が私の唇に移る。次に起こされるであろうアクションに、期待と緊張が混ざり合って心の臓が激しく鳴った。
「げ、ん……!」
顔が息のかかる近さになった時、私は限の名を呼んだ。
嫌か? 限は私を気遣うように見る。
私は小さく首を振った。
勿論、嫌などという気持ちは微塵もない。私の中の僅かな理性が働いて警鐘を鳴らしただけだ。
ここで踏み切ってしまえば、きっと私も限も止まれない。互いを求め、溺れてもなお溺れ続けるだろう。
そして同様に、ここで立ち止まってしまえば視線を交わし合うことは二度とない。私は最悪の形で限の気持ちを、勇気を踏みにじることになるだろう。
どちらを選ぶにせよ決して後戻りはできない。
それを自身に確認する必要があっただけだ。私は、腹をくくって決断する。
「私から、したい」
限は一瞬ポカンと呆けた後、耳まで赤くなるほど顔を熱くさせた。
それを見て、改めて自分が大胆な行動に出ようとしていることを自覚する。
私は生唾を飲み込んで背伸びをした。
唇に触れた瞬間、私を求める限の熱がそのまま伝わってくるようで頭がのぼせそうになった。自分からしたいなどと大見得切ったものの、キスの所作など知らない私は、どう動いていいかさえ分からず触れたままの状態でいた。やがて限の方から顔を離す。
限は先ほどの比にならないほど蒸気した顔で一言「焦らすなよ」とこぼすと、自ら唇を押し付けてきた。私の顔は限の両手にしっかりホールドされて身動きが取れない。それをいいことに、限は何度か小鳥のように唇を啄ばんだかと思えば、自身の舌を私の口内に捻じ込んできた。
パサリ。
私は身体に侵入される奇妙な感覚に驚いて、固く握っていたバスタオルを落としてしまった。
必死に限の舌を自分の舌で押し戻そうとするも、唾液でぬるついてより激しく絡み合い逆効果になってしまう。私の抵抗などお構いなしに、限は角度を変えて何度も口内を蹂躙した。私は息をすることもままならず、快感と酸欠で脳はまともに働かない。
たまらず、限の胸のあたりをポンポンとタップして、降伏の合図を出す。
限は名残惜しそうに私の口内から舌を撤退させた。
私は肩で息をして酸素を取り込む。涙目で限をじろりと見ると、限は一歩引いて口をパクパクさせていた。
不思議に思って自身を見ると、限りなく裸に近い下着姿を晒しており、そこにあるはずのバスタオルが床に落ちていた。
それを拾ってもう一度隠せば問題ない。
だけれど私の脳は酸欠状態から回復しておらず、そんな簡単なことにすら考えが及ばなかった。
「キャァアア」
血迷った私は、下着姿が見られない距離まで詰めようと限に強烈なタックルをかましていた。限はそれをまともに受けて私を抱きかかえながら激しく床に倒れこむ。
馬乗りになったまま恐る恐る窺い見ると、限は口角を上げて不敵な笑みを浮かべていた。
「え……あ、ちが……」
自分がやらかした事の重大さに気付いた時には、限の手が私の腰に回されていた。
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『運命論者の決断』
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