エルリ


 仕事が終わって会社から出ると、冷え切った風が頬を撫ぜた。
吐き出す息は尽く白く染まっていく。悴んだ指先でごそごそと鞄を探って綺麗に折りたたんだマフラーを取り出した。
 去年、エルヴィンからもらった誕生日プレゼントのマフラー。仕事で使うスーツばかり着てしまう自分だが、あいつと出会ってからはそれなりに私服も増えてきていて、それにも合うように、と心底悩んだ末に購入したのがこのマフラーだった。長らくの間タンスにしまっていたのだが、今日は雪の予報も出ていたこともあって引っ張り出した。
 ぐるぐるとマフラーを巻いたところで、ポケットに突っ込んでいたスマートフォンが鳴った。ぴろん、とアイデンティティの欠片もないデフォルメの着信音が二回鳴る。
『仕事は終わった?』
『いつもの場所にいるよ』
 マフラーに半分顔を埋めて、俺は小走りにその場所へ向かった。

***

 街路樹は、近くクリスマスを迎えるために着飾り、夜の空に輝きを放つ。ビルとビルの合間に埋もれたように立つもみの木は、何時もは味気ない癖して、クリスマスが近づくと、さも主役です、とばかりに目立ちたがる。
 ……エルヴィンと会うまでは蹴り倒してやりたいとさえ思っていたのだが。
「エルヴィン」
 その主役は脇にエルヴィンを立たせると、それはそれは絵になるのだ。
……俺にとってもみの木なんて添え物の脇役でしかない、というのが本心だ。
「リヴァイ!お疲れ様」
 微笑む彼の手には手袋が嵌っている。今年の、エルヴィンの誕生日に俺が贈ったプレゼントの手袋だ。気付くと少々照れくさい。
「ああ、おつかれさま」
「リヴァイもマフラーをしてきたのか。なんだか恥ずかしいな。」
「…おぅ」
 まるで初恋をした学生のような照れくささを携えながら、二人して夜道を歩く。横を通り過ぎたカップルが幸せそうに笑っていた。
「手が寒そうだな、リヴァイ。」
「今日は一段と寒いからな」
 両手を握りこむと、手袋をしたエルヴィンの手が片方の手を攫っていった。
「おい、エルヴィン」
「今年は手袋を買いに行こうか。スマホもいじれる手袋」
 デレデレと笑うエルヴィンに何も言えず、マフラーに顔を半分沈めた。手持無沙汰になった左手を動かしていると、暗闇から雪が舞い落ちてきた。
「……雪、」
「ホワイトクリスマスになるかな。これからも雪の予報だし」
 一週間後に迫ったクリスマスまで、天気予報はすべて雪だるまのマークだ。当日降っても降らなくても積もるのは確実なのだろう。
「寒くて動く気になんねぇ。」
「デートなのに?」
「デートなのに。」
「……でも、…こたつでぬくぬく過ごすのも、悪くないな……。」
 少し落ち込んだ様子で呟くエルヴィンに冗談だけどな、と笑うと、ぱぁっと嬉しそうに笑った。
「…お前といられればなんでもいい……」
 マフラーに埋もれたまま、もごもごと話すと、繋がれた右手がギュッと強く握られた。

 白い結晶がイルミネーションを反射して、きらきらと静かに舞い降りていった。


この冬 最初の雪
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