エルリ


「おい、エルヴィン。寝るぞ」
いや、まだ書類が、などと嘯く調査兵団団長殿の首根っこを掴んで、椅子から引きずりおろす。寝室まで運ぶと、エルヴィンはしぶしぶといった様子でジャケットを脱ぎ始めた。それに満足した俺はシーツの中に潜り込む。



今回もまたひどい壁外調査だった。
鳥かごのような壁を目指しながら、馬で地平を駆けていく。先頭が巨大樹の森を横切ったところで、背後から怒号が飛び交った。
『巨人だ!!』
「……エルヴィン、」
エルヴィンのななめ後ろに近づき一言。返事も聞かずに後尾まで下がった。
「兵長!!」
まるでカミサマを見つけたような顔で呼んだ女性兵士に、俺はそばまで馬をつけて告げる。
「手伝え、棄てるぞ」
「え?」
聞き返した彼女に、顎で示したのは死体を乗せた馬車だった。
―――俺はカミサマなんてものではなく、ただの死神だ。
「早くしろ」
断末魔を聞きながら、荷馬車も、死体も、全部棄てて、なんとか壁内に帰ってきた。



ぼんやりとした不安を感じて目を開けた。
ゆっくりと息を吸い込むと、エルヴィンの匂いが鼻孔をくすぐった。静寂の中に二人だけの息遣いが聞こえる。
「……エルヴィン」
まだ日は昇っていないようだ。暗闇で何もかもがぼんやりとしている。
背後に何か得体の知れない恐ろしいものがあるような気がして目を閉じた。
得体の知れない、わけではない。わかっている。この不安は死んだ彼らの、断末魔の残響だ。
「エルヴィン、」
こつんと頭を彼の胸に押し付け、もう一度息をする。
きっとこうして眠る彼も感じている。彼の眉間にしっかり刻まれている皺が物語っているのだ。
腕をそろりと伸ばして髪を撫でる。
彼の片翼になっても、決してその不安を分かち合うことなどできない。
それでも構わないと思えるようになったのは、その残響を、耳を塞いで聞こえぬ振りができるようになったからだろうか、
エルヴィンの顔を抱き込むようにして腕を回す。

せめて、逃げ込める夜を少しだけ、長くして。

腰に回る太い腕がぎゅっと、抱きしめてきた。
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