エルリ



 時刻は暗闇が蔓延る真夜中である。エルヴィンはソファに深く腰掛け、ため息をついた。

 調査兵団は多くの問題を抱えている。慢性的な人員不足、諸々にかかる費用は増えていくばかりで、次の壁外調査さえ行えるか審議を繰り返すばかり。巨人という謎を解き明かすための研究資金も当然足りない。兵士たちへの給料も食料も……それは同時に調査兵団という組織の長である彼の問題でもあった。
 「ふぅ…」
 資金を集めるために中央に棲む貴族たちへ送り付ける書類に切をつけ、もう一度ため息をつく。書類を机の右端に寄せ、空いた場所に足を乗せる。非常識極まりない行為だが、今ここに彼以外、人はいない。

 エルヴィン・スミスという男は、容姿端麗で品性高潔だと、彼を慕う者は言うだろう。悪魔だと評する者もいるかもしれないが。しかし内実は、野心にあふれた人物であり、品性の欠ける行為も一興とする一人の人間であった。それを人に見せることはない。ただ、一人を除いては。
 「入る」
 一言、扉の奥で聞こえた。次には扉を叩き開ける音が耳に届く。
「リヴァイか」
 目線だけを音源に送り、彼であることを確認する
 彼、リヴァイはエルヴィンの祀り上げた人類最強である。リヴァイは陰鬱そうな顔をしてはいるが、常に仲間へ気を配ることができる。加えて飾らない性格に憧憬の念を抱く者も多い。そして、彼の高潔なイメージは想像以上の潔癖症故であろう。リヴァイという人間に品性や清潔感を与えてくれる。大層驚く新兵もいるが。人類最強、人類の希望という肩書に憧れ、入団してくるものも少なくない。リヴァイを地下街から連れ出してきた時点でその傾向を確信していたが、今現在の状況を見るに当時の予想を遥かに上回っていた。
 「団長様がそんなのでいいのか?」
両手に湯気の立つカップを持ち、足で後ろの扉を勢いよく閉める。

目蓋を閉じ、彼のいる気配を感じながら天井に顔を向ける。ことん、と机とカップが当たる軽い音が聞こえ、ソファの左側が深く沈む。
「リヴァイ、疲れた。」
「そうか。」
「少しは労わってくれないか」
ふん、と鼻で笑う気配がしてから間が空いて、ソファが数秒前と同じ形に戻る。そのすぐあと、机に乗った足の上に人の跨る感覚が伝わってくる。エルヴィンが目蓋を開けるとリヴァイの威圧的な三白眼が見つめてきた。もっとも、彼自身はエルヴィンを労わってやろうという気持ちでやっていることだろうが。
「なんだよ、労わってほしいんじゃなかったのか?エルヴィン団長よ。」
エルヴィンは答えず、沈黙の中数秒見つめあって、どちらともなく噛み付く様なキスを仕掛ける。リヴァイはエルヴィンのループタイを掴み、目を閉じて寄りかかる。

 エルヴィンはリヴァイの小さな口の中を蹂躙する。歯並びに沿って舌を動かし、リヴァイの背を掻き抱く。それを合図にリヴァイの赤く熟れた舌が誘われて出てくる。舌を絡めて、リヴァイが切なげに熱い息を吐いた。
「はぁっエ…ル、ヴィン…」
 唇を離し、リヴァイの額にキスを落とす。耳元で甘く囁いた。
「ベッドに行こうか。」

 甘く蕩けたリヴァイの瞳を覗き込み、微笑む。リヴァイの手がループタイから離れた。もう一度軽くキスをし、リヴァイの背に回った腕で抱え上げ、机の上から足を降ろす。ガシャンとカップの倒れる音がした。
「おや、倒してしまった。」
「そんなのいい。だから、なぁ、」
 はやく、と急かすリヴァイを抱いたまま立ち上がる。

「ベッドの上では労わってほしいな」



 机の端からポタポタと湯気の立った紅茶が滴り落ち続ける。
 夜はまだ長い。机と床が綺麗に拭かれるまで、暗闇は蔓延り続ける。
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