#あまかわんらいお題


お題「透明」
縛り「最後の一文を体言止めで終わらせる」



透明



幼い頃、綺麗なものを集めるのが好きだった。
公園の草花、川辺の小石、道路脇の昆虫の翅。

集めるだけで終わった宝物。
大切に大切に仕舞ったはずなのに、気が付けば宝箱はいつも空っぽだった。

逃げ出したのか、捨てられたのか。
昔も今も知る術はない。

子どもの自分が集めた宝物。
中身がなくとも思い出は詰まっている。
大人の自分が忘れたものまでも。

気分転換、と適当な理由を付けた部屋の模様替え。
机の引き出しを整理して見つけたのはあの宝箱。

そう簡単には壊れない、しかしそっと優しく手を伸ばす。
高鳴る心臓が記憶を呼ぶ。
大切に大事に扱うべし、と。

外の光と空気に触れた赤い菓子缶、振るとからから音がした。

いつも空っぽがらんどう、だけども一つ残っていた?

錆びた蓋は固かった。
力任せに、強引にだが開け放つ。
ころん、と飛び出たガラス玉は畳で弧を描く。

どうして、どうやって。
幼い自分に問いかける。

宝物だったはずなのに。
宝物であろうと待ってくれていたのに。

ガラス玉は透明に輝くだけ。
何も語らず、ころころ転がり縁側の上。


18/06/03
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