随想録 Ⅰ
【おしんへの書き出し&文末一文お題】
〔書き出し〕
見やるとまるで得心のいかぬ顔。
〔文末〕
油の爆ぜる音が、今も聞こえる気がする。
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パチパチ、ジュワジュワ
見やるとまるで得心のいかぬ顔。
料理に使う粉がこんなにあるなんてどういうこと?
小麦粉、薄力粉、強力粉、片栗粉。
他にもある?見分けられる?
味では分からない、触ったらかろうじて片栗粉は分かる、と思う。
強力粉はパンをつくるためのもの、と何度か調べるうちに覚えた。
小麦粉と薄力粉、は未だに覚えられない。
一緒、ではなかったと思う。思うだけで全然自信はない。
今日は久しぶりに揚げ物をしようと思ったらこれ。いつも頭を悩ませる。
早く油にくぐらせたい、その一心で変換欄を指は滑っていく。
目当てを読み漁り、慌てず確認。これで、よし。
目の前で眉間のしわが少し和らいだのを見てこちらもようやく一息つけた。
気づいた彼女がはっとして、これで合ってるよね?と確認してくる。
多分?としか答えられないのは、自分も粉について詳しくないため。お腹に入れば一緒じゃない?と言いかけたが、止めた。
向こうから、まだー?と空腹で首だけでなく身体まで伸ばしてキッチンへ呼びかける声に遮られたから仕方ない。
油は十分に温まった。衣を纏った食材を、いざ。
みなが息を、つばを飲んだ。早く、早く、まだかな、もう少し?
分かりやすい期待の視線が彼女の箸の動きと連動する。
子どものころに見た、絵本を思い出した。
彼らが作っていたのはホットケーキだったが、素材が違うだけで大きく見れば同じく料理だ。なんて考えていたら彼女が蓋で油跳ねをガードしながらひっくり返す。
ふつふつと衣が膨らんできた。出来上がるのを待つ自分たちはさながら絵本の中のこぐま。
油からゆっくり上がったあつあつ出来立て。小さな欠片をぱくっと味見した彼女は顔が思わず綻んでいた。
それが合図でみんなが立ち上がる。皿を用意し、箸を持ち、行儀よく順番待ちなんて出来ずにつまんでいく。
口の中に広がる熱さと匂い、美味しさに空腹感はより増した。
「おかわりいっぱいあるからね!どんどん食べてって!」
待ちに待ったパーティーの始まりだ。彼女は揚げて、みな食べて。様子を見ながら材料を仕込んでいく。
面白い具合に食材はどんどん油の中へ、胃袋の中へ。笑顔で腹って満たされるんだ、と笑ってしまった。
洗い物もすべて終えたのに、油の爆ぜる音が、今も聞こえる気がする。