随想録 Ⅰ


哀々傘



雨の中、相合い傘で歩く。
微笑むあなたにすっと心が癒される。

並んで歩く僕らの間には空間なんてほとんどない。
それなのにあなたとの心の距離は縮まらない。
あなたの瞳に写る名も知らない相手に嫉妬する。
胸が締めつけられるみたいだ。

傘が飛び、舞い上がる。
あなたの瞳にやっと僕が写る。
刹那、歪んだ表情が意味するのは……。

音もなく地につく傘。
その先には僕たちがいる。
あなたは地を抱きしめる。
その瞳に光は射さない。

あなたは見た、僕の狂喜。
あなたは知った、僕の狂おしいほどの愛。
気づいたときには、もう遅い。
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