随想録 Ⅰ


翡翠のカケラ



街角で見かけた一匹の黒猫。
まだまだ幼さの残るそいつは風雨を避けるようにうずくまっていた。

近づけばこちらをじっと見つめている。
澄んだ翠色がこちらを観察する。
それは何だかすごく綺麗で思わず手が伸びる。

途端、びっくりした黒猫に今までよりも距離を置かれる。
警戒するそいつをあまり刺激しないようにして、そっとその場を去った。

きらきら輝く美しい宝石は手に入れるのが難しい。
その虜となれば魅惑な魔術から逃れるのも難しい。
きっとあのとき、あの黒猫のエメラルドに囚われていたのだろう。
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