郷に入っては郷に従え
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ゴトン。
鈍い音とちょっとした揺れの後、船はとまった。
「着いたみたいだよい」
『おおう…マジですか』
「おう。…んな縮こまってどうしたんだよい」
『あ、いえ別に…珍しくセンチメンタルというか…多感な時期なので』
「それ自分で言うことかよい」
確かに、と苦笑いしたあと、立ち上がった。
今まで座ってたせいか少しバランスを崩してしまったが、何とか持ちこたえた。
よろけそうになった僕を支えようとミリは考えたのか、ピクッと反応して手を前に出しかけてたマルコさんに、胸がほっこりした。この人根が優しい。
「んじゃ、行くかよい」
ガッ、と手すりに足をかけ、たと思ったら颯爽と飛び降りたマルコさん。
……おや?
「早く降りてこいよい」
『で、出来るかああああ!!!!!!!!』
気づけば周りの船員さんたちも、身軽に飛び降りていく。
いや待ておかしい。
確かに彼らにとっては些細な段差かもしれない。
しかし、あくまでも、それは彼らにとってだ。
平凡も平凡な一介の学生にとって、このウン十mの高さは0.0001%の確率で捻挫or骨折、99.9999%の確率で死でしかない。
多分ホーキンスさんも驚きの正確さだと思う。賭けてもいい。
「早くしろよーい」
『無理に決まってんでしょおおお!!!!めっちゃ怖いわ!!!!ビビりなめんな!!!!!』
「ったく…しょうがねえ奴だよい…」
ああ、こちらに来てからn回目のマルコさんのため息が微かに聞こえる。
大変申し訳ない。だがしかし無理なものは無理。
手すりを掴みながら落胆していると、突然視界が変わる。
『おああああ?!!』
思わず目を瞑った。
体の揺れが収まった頃には、何となく自分の置かれた状況が理解出来た。
誰かに抱えられている?
恐る恐る目を開けると、目に入ったのはくせのある黒髪と、オレンジ色のハット。
「なら、俺と一緒に降りるか」
『?!え、エース!』
見知った顔がそこにあった。
良かった。一瞬死を覚悟していた自分がいる。
『え、あ、ああのこれは一体』
「降りれねーんだろ?んなら俺が降ろしてやるよ」
『えぇ…神…』
「掴まっとけよ?」
『え、なん、っぇぇぇええええ??!!!』
いきなりの浮遊感。言いようもない恐怖に思わず抱きついていた。
某ネズミーシーのアトラクションのような、内臓が浮く感覚。
うぷ。
「っと、」
『アヒェ』
着地の振動で思わず変な声が出た。
「ほら、着いたぞ。そろそろ離せ~」
『あっごごごめん』
ぱっと手を離したら、優しく地面に降ろしてくれた。やはり人間、地面を歩くに限る。
「遅ェよい」
『す、すみません…』
「大目に見ろよマルコ!さすがにケイがあの高さから飛び降りたら死ぬって!」
『確かにそうなんだけどそんな笑顔で言われるのも何かこうどうなんだろう?!!』
「ごちゃごちゃ言ってねーで、さっさと行くよい」
『あっはい』
スタスタと歩き始めたマルコさんに、慌てて着いて行く。
ん?この流れはもしかしなくても買い物に付き合ってくれるのか?
横に並んでくれているエースも、きっとそういう事なのか。
ふと顔を上げてエースを見ると、彼は不思議そうな様子で、しかし爽やかに笑いかけてくれた。
つられて僕も笑った。
いい人たちだ。