郷に入っては郷に従え
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『にしても…綺麗な海だなあ』
これから上陸する島はどんな島だろうか。
栄えてる?寂れてる?
洋風かもしれない、和風?中華かも。
名物は何だろう、ご飯は?
…想像するだけでワクワクする。
島についたら何を買おう、何をしよう?
遊びじゃない、なんてマルコさんに怒られそうだけど…。
初上陸、浮かれるのも仕方ない。
お金いくら持ってたかな、と財布を確認しようとした時僕は思い出した。
"何も持ってきてない"ことを。
『あああ~~~バカ~~~~~!!!!』
頭を抱えてうずくまる。
横を通りかかった船員さんが「うおっ」と驚いていたのはこの際無視する。
『財布カバンの中じゃんよ~~~…あっでもどっちにしろ円は使えないか…ベリーか…』
テンションが下がる。
船に乗せて頂いてるのに、加えてお金まで借りることになるとは。
いや船一番のポンコツだから稼ごうにも稼げないけれど。結局タダ乗り同然だけれど。
この年で借金まみれだ。海賊なら欲しいものは盗るか奪うしかな…ポンコツだから無理だ。
『あ~あ…前途多難…』
ため息をつきながら、諦めたように船縁に背を預けて座る。
足を投げ出すのも申し訳なくなって、体育座りの体勢になった。
『むしろ…何持ってきたんだろう、僕』
そう思ってポケットを探る。
胸ポケット、ペン。
内ポケット、生徒手帳。
右ポケット、ティッシュ。
左ポケット、財布。
財布。
『財布!!!!??』
思わず大声を上げてしまった。
通りかかった船員さんが「おっ?!」とビックリしてたのはこの際無視する。
一体どういう事か。
確かに財布はカバンの中に入れていたはずだ。
二つ折りになったよくあるタイプの財布。
中を開いてみた。
行きつけの本屋のポイントカード、最近観た映画の半券、ノリで撮ったプリクラ。
間違いなく僕の物だ。
お札側を見てみると、数枚入っている。
『え、一万円札がある…?そんなにお金持ってたっけ…』
よーく見てみると、見慣れたお札とはデザインが少し違っていた。
Bに∫が重なったような記号も見える。
これは、まさか。
『一万ベリー…札?う、うっそぉ』
情報処理が追いつかない。
つまり、持ってきていないと思っていた財布が実はポケットに入っており、その中にはこっちの世界のお金が入っており、しかしその出どころは皆目検討もつかない、といったところだ。
一体何故なのか。
このお金がどこから湧いて出てきたものかも分からない。
もしかして僕は知らぬ間に物盗りでもしていたのだろうか。
いやそれはないはずだ。確証はないが。ないはずだ。
僕を”こちら側に連れてきたであろう誰か”からの些細なプレゼントだとでもいうのか。
そうだとしたら正直ありがたいが、少しだけ気味が悪い。
『…』
僕は複雑な気持ちで財布を閉じ、ポケットにねじ込んだ。
島に着くまで、じっとしていることにしよう。
そう思った僕は、先ほどよりも深く膝を抱え、縮こまった。
清々しいくらいに、潮風が心地よい。