好奇心にご用心
「バレンタイン、ってイベントがあるって聞いたからね」
そう言いながら、シャルルが満面の笑みで差し出してきた色とりどりのチョコレートに、その場にいた全員の顔が固まった。
「久しぶりにキッチンに立って作ってみたんだ。よければ食べてみてよ」
2月14日。
竜災害の最中とはいえど、こういったイベント事には皆どこかソワソワと浮き足立つ。
13班も例外ではなく、菓子作りの得意なメンバーを始め、それぞれおもいおもいのバレンタインを過ごしていた。
しかし楽しむ一方、班内では暗黙の了解が掲げられていた。
ーーシャルルをキッチンに立たせるな。
一見ごく普通の美少年である彼だが、人一倍に好奇心の強い性格だ。こういったイベント事があると知れば、必ずキッチンでやらかすに違いない。
それに、料理の腕も天才的に下手だ。下手だが、それを自覚していない。キッチンに立つなと言って聞き入れるはずはないのだ。
それなら、キッチンに立つ機会そのものを作らなければ良い。
何も言わずとも自然と一致した意見に沿って、班員総出で対応していたにも関わらずーーこの惨劇とは。
「これは……チョコレート、なの?」
キイチは、恐る恐るテーブルに並べられているチョコレートの一つをつまむ。
見た目はごく普通のトリュフチョコに見えるが、いかんせん作ったのがあのシャルルなのだ。普通なわけがない。
「うぇっ、なんか泥みたいな臭いするんだけど……」
「こっちの世界の、魔法使いの本で読んでね。作中に出てきたゼリービーンズを真似てみたんだ」
「……ちなみに何味なわけ?」
「もちろん、泥味だよ。食感も真似てみたんだ」
「食感……」
ということは、泥を食べたのか。ーーいや、シャルルに限って食べないはずがない。
好奇心を満たすためなら何でもする。それがシャルルだ。
何をどう返せばいいかキイチが思案していると、キョウスケが泥味チョコレートを一つ取り、躊躇いもせず口に入れた。
「ん。凄く不味いな」
「でしょ! 泥味すっごく不味いんだ!」
「こっちの方がまだ美味い」
「それはマナ水入りだから回復効果もあるよ」
「回復か。有難いな。ところで、アップルパイ味はあるのか」
「もちろん! あ、でも味は保証しないけどね」
「構わない」
キョウスケは、黙々と色とりどりのチョコレートを口に運んでは、変わらない表情で平らげていく。
「ゆ、勇者だ……」
誰かが呟いた一言に、13班一同頷く。
作り手を幻滅させることもなく、周りを巻き込むこともなく、ただ淡々と食べ続けるその姿は、まさに勇者だ。
テーブルの上のチョコレートが残り少なくなってきた頃。
シャルルは、ふと隣に立っていたクライブの方へ振り返った。
そう言いながら、シャルルが満面の笑みで差し出してきた色とりどりのチョコレートに、その場にいた全員の顔が固まった。
「久しぶりにキッチンに立って作ってみたんだ。よければ食べてみてよ」
2月14日。
竜災害の最中とはいえど、こういったイベント事には皆どこかソワソワと浮き足立つ。
13班も例外ではなく、菓子作りの得意なメンバーを始め、それぞれおもいおもいのバレンタインを過ごしていた。
しかし楽しむ一方、班内では暗黙の了解が掲げられていた。
ーーシャルルをキッチンに立たせるな。
一見ごく普通の美少年である彼だが、人一倍に好奇心の強い性格だ。こういったイベント事があると知れば、必ずキッチンでやらかすに違いない。
それに、料理の腕も天才的に下手だ。下手だが、それを自覚していない。キッチンに立つなと言って聞き入れるはずはないのだ。
それなら、キッチンに立つ機会そのものを作らなければ良い。
何も言わずとも自然と一致した意見に沿って、班員総出で対応していたにも関わらずーーこの惨劇とは。
「これは……チョコレート、なの?」
キイチは、恐る恐るテーブルに並べられているチョコレートの一つをつまむ。
見た目はごく普通のトリュフチョコに見えるが、いかんせん作ったのがあのシャルルなのだ。普通なわけがない。
「うぇっ、なんか泥みたいな臭いするんだけど……」
「こっちの世界の、魔法使いの本で読んでね。作中に出てきたゼリービーンズを真似てみたんだ」
「……ちなみに何味なわけ?」
「もちろん、泥味だよ。食感も真似てみたんだ」
「食感……」
ということは、泥を食べたのか。ーーいや、シャルルに限って食べないはずがない。
好奇心を満たすためなら何でもする。それがシャルルだ。
何をどう返せばいいかキイチが思案していると、キョウスケが泥味チョコレートを一つ取り、躊躇いもせず口に入れた。
「ん。凄く不味いな」
「でしょ! 泥味すっごく不味いんだ!」
「こっちの方がまだ美味い」
「それはマナ水入りだから回復効果もあるよ」
「回復か。有難いな。ところで、アップルパイ味はあるのか」
「もちろん! あ、でも味は保証しないけどね」
「構わない」
キョウスケは、黙々と色とりどりのチョコレートを口に運んでは、変わらない表情で平らげていく。
「ゆ、勇者だ……」
誰かが呟いた一言に、13班一同頷く。
作り手を幻滅させることもなく、周りを巻き込むこともなく、ただ淡々と食べ続けるその姿は、まさに勇者だ。
テーブルの上のチョコレートが残り少なくなってきた頃。
シャルルは、ふと隣に立っていたクライブの方へ振り返った。