「あたしがっ虫にビックリして…
涼介さんと…一緒に転んじゃって…」
「違うよ、あやか。
あの時にケガしたんじゃない。」
「えっ」
泣きながら話す声を遮る兄。
驚き見開く薄茶の瞳。

「どーゆーことだ？」
「ケガしたのは今日だよ。」
「えっ？」
苦笑いした白い彗星。
ハテナ顔の女神と弟。

「研修先の大学病院で…
予防接種に来た子供を押さえてたら噛まれてね。」
ちらりと目をやる右手。

「噛まれた！？」
「大丈夫なの！？」
「消毒したし、薬も飲んだから大丈夫だよ。
痛み止めで眠くなったのかな…」
「でもそんな包帯ぐるぐる巻きなんて…」
下を向いたあやか。
ぽとりと落ちた雫。

「あぁこれは…
入院してる看護師志望の女の子に巻かれたんだ。
ガーゼだけじゃダメだって言って…
明日交換するから触るなって言われてるんだよ。」
微笑みながらそっと上げた右手。
よく見るとぐちゃぐちゃな螺旋。
最後に貼られたハートのシール。

「なっなんだよーっ
そんな理由かよっ」
「心配かけてごめんね…あやか。 」
「ううんっ平気！
ヒドいケガじゃなくて良かった…」
向かいのソファにへたりこむ啓介。
ゆっくりと優しく撫でる薄茶の髪。
愛しげに涼介を見つめる濡れた瞳。

「あれ？
今日って…あのパーティーじゃ…」
「もぉいいんだよー
毎年見世物なんだもん！」
ハッとする涼介。
とんがった唇。

「でも武田さんがそろそろスポンサー絞るって…」
「そんなのあたし関係ないもん！
はみとんとか外人はしつこいから嫌い！」
「はみとん？」
「もーいいの！
あたしが涼介さんの看病してあげる！」
「看病って…」
心配そうに見つめる兄。
ぷうっと膨らんだ頬。
呆れ顔で呟いた弟。