「前だって別に変わらねえだろ。
相変わらずボロボロだぜ？涼介…」
キレのない走り。
らしくない白。


こんな涼介なら

すぐ抜ける。


楽勝だぜ。


ぐいぐいと踏み込む右足。
どんどん縮んで行く距離。

「いただきだ！」
並んだ白と黒。
抜けたコーナー。
入れ替わった位置。

「見たか！
俺の勝ちだっ涼介！」
決めたガッツポーズ。
ミラーに映り込むＦＣ。

「やった！やったぞっ
白い彗星を抜いた！」
歓喜の声を上げる京一。
なめらかに走り抜ける黒。

「いくらあやかが心配だからって
そんな走りはねえだろ。
なぁ…涼介！」
意気揚々と叫ぶ声。
パンパンと吠える黒。

「だっせぇな！
それでも白い彗星かよっ
またラインずれてるぜ！？」
ぐらりと揺れた白。
再び開いた距離。

「ん？
なんだ！？」
コーナーを抜けた２台。
同時に近付いた白い影。

「なっなんなんだ！？」
明らかに変わった走り。
憑き物が落ちたようなＦＣ。
あっという間に縮まる車間距離。

「どういうことだ！？
こんなっ」
明らかに動揺するエンペラーのリーダー。
流れるように横に並んだ白い車体。
笑みをたたえた切れ長の瞳。

「なっ…笑ってやがるっ
いったい…」
呆然としている間に前に出た白。
どんどん遠ざかって行くテールランプ。

「なんなんだっ
あの走りは！？」
叫び声と同時に消えた後ろ姿。
目の前に迫ったコーナー。

「何があったって言うんだ！？
ちきしょうっ」


須藤京一の悲痛な叫びは

日光の木々に吸い込まれていった。