「わあぁっ突っ込んでくるぅっ！」
「こらっ逃げんな！」
逃げようとする男。
掴んだシャツの襟。

「見ろ！」
「無理だ！」
怒鳴った啓介。
叫んだメガネ。

「うわあぁぁ～っ」
山に響いた絶叫。
轟くスキール音。
見事なドリフト。

「うわっすげぇな兄貴！
相変わらずだぜっ」
「わっわっわっ…」
風のように目前を通過した白。
後を追うパープルメタリック。
重なり合う２つのスキール音。

「変わった色だな…あの車。
かなりうまい…」
「タムラ…どうして？」
あっという間に見えなくなった２台。
冷静に感想を述べたヒルクライム担当。
腑に落ちない表情で独り言を呟いた女神。

「おいっ見たか！？」
「はっはいっ
見ました！」
男を睨み付ける啓介。
挙動不審な動き。
変色した股間。

「お前っ漏らしたのか！？」
「すいませんっ
だってっ…恐くてっ」
またこぼれる涙。
呆れ顔の弟。

「なんで彗星って呼ばれてんのか分かったか？」
「はいっ分かりました！
本当に彗星のようでした！」
「あっ…涼介さんだ！」
不意に聞こえた着うた。
携帯を取り出す小さな手。
液晶に着信涼介さんの文字。
一つ息を吐いて開く通信手段。