「おっおはよう…」
「早いな…啓介。」
「うん…ちょっと出かける。」
リビングに入って来た弟。
しっかり整えられた髪。
冷たく見上げる涼介。

「横浜に行くのか？」
「えっ？あぁ、うん。
わっワタルに用があるんだ。」
明らかに乱れた視線。
見るからに不審な挙動。


白々しい。


俺には言えないのか…


２人でどこに行くんだ？


「そうか…気を付けてな。」
「あぁ！うんっ
気を付ける！」
大げさに頷いてドアへ向かう背中。
ドアが閉まったのを見届けて
大きく吐き出したため息。


あやか…


会いたい。


でも

会えない…


「涼介様。
そろそろお時間では…」
不意に聞こえた声。
ハッと我に返る涼介。

「あぁ、もう行く。
ごちそうさま…」
呟いて向かうドア。

「行ってらっしゃいませ。」
深々とお辞儀をした家政婦。


会いたくても

俺には時間がない。


会えないのは俺のせいだ。


会えない時間にあやかが何をしようと

文句を言える立場じゃないんだ。


再び吐き出したため息。
用もなく取り出すケータイ。
なんの変化もない待ち受け画面。

「あやか…」
口の中で呟いた愛しい名前。