「あそびがねぇって事は…
あのＦＤ…」
ゆるむ力。
俯く政子。

「たぶん…
悪魔みたいにトリッキーな車になってる。」
「悪魔かよっ
貴之は心配ねぇけど…
あやかは…乗りこなせるか？」
手をおろした妻。
深呼吸する夫。

「あやかなら…大丈夫だよ。」
「そうだな…あやかなら大丈夫だ。」
穏やかに微笑んで頷く２人。

「じゃあ俺はシート作るよ。」
「あぁ。あたしは事務所にいる。」
背を向け歩き出す政子。



あそびが全くないアクセル？


あたしはユキでビビってたのに…


貴之

あんたは

いつの間にか

あたしを追い越してたんだね。


嬉しいような

寂しいような

不思議な感覚だわ…


ちょっと悔しいけど

やっぱり嬉しい。


あやか…


あやかはもっと伸びる。


あたしや貴之より

もっと早く…


あのＦＤを乗りこなしたら

きっとあたしの後を継ぐわね。


関東最速の女…


悪くない。



満足げに上がる階段。
事務所に響く電話の音。
慌てて持ち上げた受話器。

「はい、武王です。
はい…」
穏やかに流れる時間。


貴之が戻ったのは

日付が変わってからだった。