「だって…」
「全部あやかの想像でしょ？
何か…理由があるのかもしれない。」
自分を見上げる薄茶の瞳。
愛しさに焼け付くような胸。
思わず抱きしめた小さな体。

「ワタル…」
「でも…
もし別れても…俺がいるよ。
ずっとあやかを守るから…」
薄茶の髪に頬ずりして囁くワタル。
小さく頷いたあやか。

「あやか！
涼介が来たわよっ」
政子の声。
短いノック。
同時に開いたドア。

「なっ…」
見開かれた切れ長の瞳。


ハッと顔を上げた愛しい人。

その小さな体を包み込む太い腕。

あやかを抱きしめたまま自分を見上げる黒髪。


「あらっお邪魔だった！？」
してやったりな顔で言う政子。

「あ…」
声にならない声。
再び泣き出したあやか。

「あやか…大丈夫？」
これ見よがしに抱き寄せる細い肩。
鼻がくっつきそうなほど近付いた顔。
黙ったまま首を振る女神。

「あらぁ…どうしようかしら？」
おどけて涼介を見上げる政子。
冷たい切れ長の瞳。

「帰ります。
もう俺は必要なさそうですから…」
そう言うと踵を返す涼介。

「涼介…さんっ」
涙にかすれた女神の声は
涼介の耳には届かなかった。