「あやか？
夜食もってきたよ。」
優しくノックして囁いたワタル。

「いらない。」
聞こえたか細い返事。

「昨日からまともに食べてないでしょ？」
「いらないもん。」
投げやりな甘い声。
思わず吐き出すため息。

「あやか…
涼介さんと何があったの？」
「何もないもんっ」
「今…涼介さん来てるけど？」
「会いたくないっ！」
即答した女神。
小さく笑ったワタル。

「そうだろうと思って
帰ってもらったよ。」
「えっウソ！？」
すかさず開いたドア。
見開かれた薄茶の瞳。

「うーそ！
やっぱりなんかあったんでしょ？」
「やだっもぉサイアク！」
閉まりかけたドア。
滑り込ませたスリッパ。

「やぁだっ」
「何があったか知らないけど
ご飯はちゃんと食べなさい。」
必死に閉めようとするあやか。
あっさりとドアを開けた太い腕。

「はい、政子さん特製
味噌焼きおにぎり。」
漂う香ばしい匂い。
唇をとがらせた女神。

「焼きおにぎりはめんどくさいから
もう作らないって言ってたのに…」
「あやかが食べてくれるなら…って
わざわざ作ってくれたんだよ。
これでも食べないつもり？」
じっとあやかを見つめるワタル。