『あ…あぁー…
こーれ…どー…言えばいーの？』
「どうした？
見たままを話せ。」
静まり返ったスタート地点。
吹き抜ける一陣の風。

『これは…どー見ても…
同着っすよ…
真横…ぴったし並んでる。
あのスピードで…同着？』
「同着…」
揃って呟く武田と文太。

「分かった。
もういいぞ。
ヒロユキさんにも礼を言っておいてくれ。」
『あっ分かりました。
失礼しまっす。』
黙ったままケータイをしまう涼介。
うなだれた武田。
ふと涼介を見る文太。

「このため…だったのか？」
「何がですか？」
「スタートの時…
２台をやけにぴったりに並ばせてた。
２人に…位置を確認させてたんだな。」
「あっ」
驚いて顔を上げた武王の社長。
小さく笑った切れ長の瞳。

「あの２人は…
そうでなくてもたくさんのものを背負ってます。
こんなつまらない事で…
その荷物を増やしたくなかったんです。」
静かに言った涼介。

「つ…つまらない事か…」
「へへっそうだな！
こりゃ一本とられたな。」
がっくりと肩を落とす武田。
嬉しそうに笑ってタバコを取り出す文太。

「戻ってきた！」
「女神ぃ！」
聞こえたエキゾースト。
騒ぎ出したギャラリー。