「うわ…これはひどいな。
誰にやられた？
警察に訴えるなら診断書を書いておくが…」
息子の顔を痛々しげに見つめる父。
沈んだ表情。

「いや…いい。」
「殴られるような事をしたのか？」
黙ったまま頷く涼介。

「そうか…
若い頃にはよくある事だ。」
「父さんも…殴られた事ある？」
「あぁ…母さんには内緒なんだがな…
実はこの歯は差し歯なんだ。
若気の至りで殴られて折れちまってな。」
前歯を指さす大きな手。
あっけにとられる息子。
いたずらっぽく笑った父。

「口…開けられるか？」
「いっ…」
「これだけ腫れてちゃ痛いだろうな。
とりあえずアイシングしておけ。」
「はい。」
赤く腫れた肩を見る医者の目。

「肩は湿布だな。
啓介なら心配はしないんだが…」
「すいません…」
「いや…
男子たるもの一度や二度は拳を受けるものだ。
しかし…いいパンチだな。
こんなになるとは…
もういいぞ。」
「はい…」
「今夜は何か食べやすい物を作るように
家政婦に言っておこう。」
「すいません。」
「何かあったらまた来なさい。」
「はい…」
父の部屋を後にする涼介。

じんじんとうずく左の頬。

現実味のない感情。